出会いと恋は人を変える。それはいくつになっても同じこと。

Shopgirl
2007年,アメリカ,107分
監督:アナンド・タッカー
原作:スティーヴ・マーティン
脚本:スティーヴ・マーティン
撮影:ピーター・サシツキー
音楽:スティーヴ・マーティン
出演:スティーヴ・マーティン、クレア・デインズ、ジェイソン・シュワルツマン、ブリジット・ウィルソン=サンプラス

 ロスの高級デパートの手袋売り場で働くミラベルは一念発起田舎から出てきたのだが孤独な日々を送っていたが、ある日コインランドリーで自称アーティストの貧乏青年ジェレミーと出会い、胡散臭く思いながらもどこか惹かれる。その直後、仕事中に客としてやってきた50代の紳士レイに声をかけられ、彼にも魅かれてしまう…
 スティーヴ・マーティンがベストセラーとなった自らの小説を脚本化して主演したラブロマンス。

 若くて貧乏だけど男前と金持ちだけれど年寄りでブ男というなら古典的な“究極の選択”だが、この作品の物語は年寄りで金持ちなレイのほうが貧乏で若いジェレミーよりも明らかに色男である。女性の扱いにもなれ、大人の色気を感じさせるレイに対して、ジェレミーが勝っているのはミラベルと歳が近いということだけ。これでは最初から勝負は決まったようなものではないか。

 ならば、物語にならないかといえばそうでもないのがスティーヴ・マーティンのなかなかうまいところ。ストレートな“究極の選択”的ラブ・ストーリーを避け、ひとりの女とふたりの男が出会う(まあレイとジェレミーは厳密には出会ってはいないが)ことによってそれぞれが人間として成長するさまを描くという物語にずらすことで話に深みを出している。

 ジェイソン・シュワルツマン演じるジェレミーという青年は登場したときからおどおどしていていかにも変わり者、自信なさげなのだけれど同時に根拠のない自信も持っているという感じである。ミラベルとの出会いもぎこちなく、なんでもないようなふりをしながら彼にとって大きな意味を持っていたようだ。

 スティーヴ・マーティン演じるレイは間違いなく成功者でありながらどこか臆病なところがあり、自分を偽ったり、自分を守るために他人を傷つけたりしてしまう。

 そのふたりがミラベルに出会い、自分の中にある何かに気づく。若くても若くなくても恋愛は自分に足りない何かに気づかせてくれる。それが意味を持つかどうかはその人によるわけだが、それ以前に人と人との出会いがその人に与える影響が描かれているというところに面白みがあると思う。

 まあ実際のところ物語として面白いかといえば、それほどでもない。特にラブ・ストーリーとしてみるとなんとも煮え切らない感じで大団円がまっているわけでもなく拍子抜けな感じだ。

 原作はアメリカでベストセラーになったということだが、それはおそらくこの3人の登場人物が人間的で魅力があったからだろう。この2時間弱の映画ではその魅力の一端しか見ることができず、それが全体としてぼんやりとした印象になってしまったのかもしれない。

 つまらない映画ではないし、キャストもいいのだがDVDスルーになってしまったのも仕方がないというところだろうか。

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