ホーム メルマガ リスト

 

   

ブリジット

2005/11/30
Bridget
2002年,フランス=アメリカ,90分

 
            
     
 
 夫を殺され、その後の酒びたりの数年間で息子を奪われ、里子に出さざるを得なくなったブリジットは、あるパーティーで誘拐監禁され、恐ろしい体験をしたうえ、仕事もクビになってしまう。それでもブリジットは息子を取り戻すため、みすぼらしい部屋に引っ越し、スーパーのレジ係になる…
 『ファーストフード・ファーストウーマン』のアモス・コレックとアンナ・トムソンが再びコンビを組んだ一人の女の生き様を描くドラマ。アンナ・トムソンの実際の人生が脚本のアイデアとなったらしい。アンナ・トムソンの実の息子ヒューゴ・ハーバート・トムソンが息子役で出演している。
監督 アモス・コレック
脚本 アモス・コレック
撮影 エド・タラヴェラ
音楽 ジョー・デリア

出演 アンナ・トムソン
    デヴィッド・ワイク
    ランス・レディック
    ラス・ルッソ
    アーサー・ストーチ
    マーク・マーゴリス
    ヒューゴ・ハーバート・トムソン

 

 


ブリジット

 

 

 

 確かにこれは波乱万丈な女の一生を描いた物語であるが、映画としては人間ドラマとして組み立てられているわけでは決してない。
 映画はブリジットが赤ん坊を抱えて警察に電話をかけようとするところから始まり、次はいきなり、パーティーで乱痴気騒ぎをするブリジットのシーンへと変わる。ここでブリジットは息子に電話をしているのだが、息子と離れて暮らしているという説明はなく、息子との関係が明らかにならないまま次のシーンへと移る。そして、そのように謎を残したまま次々と物語りは展開して行く。 つまり、この映画はブリジットが今おかれている状況を説明し、これから彼女がどのように人生を送って行くのかを描こうとするのではなく、むしろ、彼女が置かれている状況そのものが描こうとするものであるのだ。
 それゆえに、この映画は一見、単純に時間軸に沿って物語が展開しているようでいながら、複数の時間へとジャンプする。ブリジットが生きる5年あまりのリアルタイムの時間と、そこに至るまでのブリジットの人生の時間のふたつの時間が錯綜して描かれているのだ。
 映画を分かりやすいものにするのならば、まずリアルタイムの時間に至るまでの出来事を時間軸や因果律に沿って説明してから、ものがあたりを展開して行くのがいいし、それがドラマのオーソドックスなやり方である。しかし、この作品では、主人公であるブリジットの過去をほとんど全て隠し、それが少しずつ明らかになって行く過程を観客に見せるのだ。
 夫は殺されたのか、殺されたなら何故なのか、彼女はどうして子供を取り上げられたのか、子供は誰に預けられているのか、そしてそれ以前の彼女は何をしていたのか… それらの謎が物語の展開にあわせて明らかになり、映画が終わるとともに彼女の人生の全貌が明らかになるという仕組み。そして、それは、映画のいちばん最初「3分間でどん底まで転落することもある」という言葉とも呼応する。この始まりの瞬間、彼女の人生はどん底にあり、この映画はそこを出発点に、そこまでの下り坂とそこからの上り坂を同時に描いていこうとするのだ。
 それによって、謎解き的な面白さが加わり、飽きることなく見ることが出来るというのは確かだ。しかし、見終わってみても、その謎と気がメインになってしまって、ドラマ/物語である彼女の人生については印象が非常に薄い。確かに波乱万丈の人生だが、だからいったい何なのか。観客がそれを自分たちの現実と比べるには、あまりにかけ離れているし、ある種の非日常的な体験として、ブリジットの人生を擬似的に体験することが気持ちよいというほど魅力的な人生でもない。「だからいったい何なんだ」というのがこの映画を見ての素直な感想ということになってしまう。

 ただ、このブリジットの人生の殺伐とした感じは、非常にアメリカ的という気はする。ブリジットは常に脅えている。そして、脅える根拠が実際にある。それに対してピートは何の根拠もなく、何も怖がらない。アメリカという社会ではブリジットのあり方のほうが現実的である。生活している中には常に危険が存在し、何かに脅えざるを得ない。ブリジットはそのようなアメリカ的な生き方の象徴なのかもしれない。そんなブリジットが根拠はないにしても脅えないピートを見つける。その時、彼女には別の生き方が見えてくる。
 そして、その結論が「逃げる」ということであることは、アメリカが直面している「逃れられないもの」を象徴しているような気になってしまうのだ。
 この映画にはブリジットがエルサレムに行き、一人の老人と出会うシーンがあるが、監督のアモス・コレックはエルサレム出身である。イスラエルというアメリカと複雑な関係にある国の人間から見たアメリカの姿、それが、この映画に現れているのではないか。