1964年,日本,152分
監督:山本薩夫
原作:石川達三
脚本:新藤兼人
撮影:小林節雄
音楽:池野成
出演:山村聡、若尾文子、船越英二、村瀬幸子

 有馬勝平は自ら築き上げた企業グループの会長を務め、辣腕を振るっていた。彼には正妻のほかに3人の妾がおり、そこにも子供がいた。時折妾の下もたずねながら、息子たちに自分の哲学を語る。そんな彼が娘婿との会談にお茶を持ってきた事務員に目をかける…
 事業の鬼と化した男をめぐる事件とスキャンダル。豪華キャストで、しっかりとしたスタッフが作り出した骨太の力作。

 映画を製作会社で見るのはなんだかマニアックな印象がありますが、この当時(昭和30年代前後)の映画を見ていると、製作会社ごとの色彩というのがわかってきます。役者たちも製作会社が同じなら、同じ人が出てくることが多いので、製作会社を意識せざるを得ない。で、この映画は大映のわけですが、わたしは大映ファンということで、この映画を見てかなりつぼに入るわけです。大映といえばやはり増村ですが、山本薩夫もかなりのもの。監督はさておいたとしても、脚本が新藤兼人、カメラが小林節雄と来れば、大映らしさが感じ取れます。役者で言っても、若尾文子はもちろんのこと、船越英二や川崎敬三、高松英郎などが出てきて、「やっぱ大映だね」と思わされるのでした。
 他には松竹、東映、日活などがあるわけで、一番の大手といえば松竹となりますが、わたしは大映が好き。ということです。
 さて、製作会社の話はさておき、この映画ですが、映画の全体を通して、非常に激しく、なんだか戦争映画のような印象です。最初のほうはカメラも遠めで、落ち着いた始まりですが、物語が進むにつれ、山村聡がクロースアップで恫喝する場面などがかなり出てきて、激しくなる。当時の企業間の競争はいわば戦争のようなもので、それを見事にフィルムに写し撮ったということなのでしょう。だからかなりの迫力があって、2時間半という時間もあっという間に過ぎます。白黒、シネスコという今は敬遠されがちなフォーマットながら、全くそんなことは関係なく面白い。これは女性関係と事業という二つの軸をうまく絡み合わせているからでしょう。どちらかが中心になってしまって、物語が平行するというようなことになってしまうとおそらく全体が散漫な印象になってしまう。それをプロットの段階でうまくより合わせて、複雑な一つの物語にしたことがこれだけの迫力ある映画を作れた要因だと思います。さすが新藤兼人というところですね。
 そして、この映画は画面から人と人との距離感がよく出ていると思います。横長の画面いっぱいを使って、端と端に人を配す場面、片側に寄せて密着させる場面、その距離感が関係をわかりやすく表現する。さすが小林節雄ということころですね。
 そして、若尾文子はやっぱりいいな。となります。やはり。

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