Rikos Ja Rangaistus
1983年,フィンランド,93分
監督:アキ・カウリスマキ
原作:ドストエフスキー
脚本:アキ・カウリスマキ、パウリ・ペンティ
撮影:ティモ・サルミネン
音楽:ペドロ・ヒエタネン
出演:マルック・トイッカ、アイノ・セッポ、エスコ・ニッカリ、マッティ・ペロンパー

 生肉工場で働くラヒカイネンは一人の男のあとをつけ、家まで行く。電報と偽ってドアを開けさせ、家の中に入り込む。ラヒカイネンは「お前を殺す」と言って、ピストルを突きつけ、その男を撃ち殺してしまう。そこに買い物袋を提げた若い女が入ってくる。彼女はその家で当夜開かれる予定だったパーティのために呼ばれたケータリング店の店員だった。
 フィンランドを代表する映画監督アキ・カウリスマキの処女長編。処女作にしてこれだけの作品を作ってしまうのはさすがとしか言いようがない。

 映画監督同士の類似や影響をあげつらって作品を論評するのはあまり好きではないですが、それがともに好きな監督である場合にはどうしてもいいたくなってしまう。この映画をみて思うのはやはりヴェンダース。映画のリズムなどはぜんぜん違いますが、映像がとてもヴェンダース。ヴェンダースというよりはロビー・ミューラーと言ったほうが正しいのかもしれません。ヴェンダースとミューラー、そしてカウリスマキとティモ・サルミネン。このコンビが作り出す映像が似ているということだと思います。それはなんとなくざらざらした映像に盛り込まれた暗いトーンの色のアンザンブル。全体に暗いトーンなのだけれど、そこには多彩な色が盛り込まれている。そのイメージがとても好きです。
 ドストエフスキーの『罪と罰』は私が最も好きな小説のひとつ。これまで何度となく読んできた小説です。その面白さは、どのようにでも解釈できるところ。ラスコーリニコフの殺人の動機というか意味というか、そのようなものは明らかにならないまま終わり、その解釈を読むたびに考えることができること。この映画はその『罪と罰』のあいまいさをそのまま映画に閉じ込めているところがすばらしい。大体好きな小説が映画化されるとがっかりすることが多いですが、これはかなりしっくり来ました。舞台も登場人物も設定もすべて変えていながら、物語にとって重要な抽象的なプロットは忠実になぞる。その描き方が絶妙です。
 ということなので、そもそも好きな要素が好きなように盛り込まれているので、気に入らないわけがない。そしてこの映画は面白い。カウリスマキと言うと、『レニングラード・カウボーイズ』の楽しさと『ラヴィ・ド・ボエーム』のような作品の淡々として雰囲気の両極端という感じですが、この作品は基本的には淡々としたものながら、サスペンス色が強いということや、音楽の使い方なので全体的な雰囲気はドラマチックなものになっている。そのあたりが処女作ということなのだろうか? しかし、この作品の完成度はかなり高く、逆にそれ以降の作品がこの作品に追いつけてないのかもしれないと思うくらいである。この処女作が到達した高みに再び上り、それを超えるために試行錯誤を繰り返しているという見方すらしてしまう。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です