1943年,日本,82分
監督:稲垣浩
原作:岩下俊作
脚本:伊丹万作
撮影:宮川一夫
音楽:西梧郎
出演:坂東妻三郎、月形龍之介、園井恵子、沢村アキヲ

 小倉の車引きの松五郎は喧嘩っ早く傍若無人なところから「無法松」とあだ名されていた。そんな無法松はある日、怪我をして泣いている少年を見つけ、家まで送り届ける。それからその家族と親しくなり、少し様子が変わってきた。
 阪妻に稲垣浩という黄金コンビに加えてカメラは宮川一夫、脚本は伊丹万作と役者がそろった感じ。戦争中でもこんな映画が撮られていたと思うとうれしいですね。

 とてもオーソドックスなドラマで、話としても戦時中らしく教訓めいたものではありますが、映画としての完成度はかなり高い。それはやはり宮川一夫のカメラというのもあるでしょう。おそろくまだ若かった宮川ですが、そのスタイルはすでに一流。おそらく稲垣浩がうまく引き出したというのもあるのでしょう。繰り返される人力車の車輪の映像、ラスト前の太鼓からの流れるような断片(モンタージュといってもいい)、このあたりを見ると、50年以上も前の映画とは思えない魅力を持っています。
 さて、ひとつ気付いたのは音のこと。おそらく当時はすべて同録だったらしいと推測され、遠くの人の声は小さく、近くの人の声は大きい。遠すぎる人の声は聞こえない。だから無法松に放っておかれた客は画面の奥でパントマイムをしています。声は全く聞こえない。これが自然だというわけではなく、おそらくマイクの感度の問題で、今なら特に問題になることでもないと思いますが、こういう録音にも注意して演出しなければならないものだということを改めて実感させられます。
 もうひとつ。映画を見ながら「ぼんぼん」と呼ばれる子役の子が長門裕之に似ているね。といっていたら、長門裕之でした。クレジットでは沢村アキヲとなっています。そういえば映画一家でした。お父さんは沢村国太郎、つまり沢村貞子のお兄さん。お母さんはマキノ智子、つまり牧野省三の娘、ということはマキノ雅弘と兄弟。なるほどね。でも50年前の顔を見て分かってしまうっていうのもかなり個性的ってことですね。
 どうでもいいことばかり書いてしまいましたが、正月なのでご勘弁。

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