Ditto
2000年,韓国,111分
監督:キム・ジョングォン
脚本:イ・ドンゴン、イム・テギュン
撮影:チョン・グァンソク
音楽:イ・ウッキョン
出演:キム・ハヌル、ユ・ジテ、ハ・ジウォン

 70年代の韓国ソウル。新羅大学に通うソウンは大学の先輩トンヒに想いを寄せていた。そんなソウンがひょんなことから手に入れたハム無線機を皆既月食の日につけてみると、知らない人から通信が。その日は驚いて切ってしまったソウンだったが、次の日話してみるとその男も同じ大学に通うと知り、無線機の教本を借りるため会う約束をするが…
 韓国で大ヒットとなったラブ・ストーリー。なんだかなつかしさも感じさせる淡い物語。

  冒頭を見たときは、「これはやっちゃった」と思いました。家庭用編集機でもできそうなセピア効果、そしてありがちなピアノのBGM。嘘のようにうぶな所作をする女子大生。そして、皆既日食の夜空のちゃちさ。
 しかし、話が進むに連れ、そうでもないと分かる。物語自体はたいしたことがなく、誰もが発想できそうな(現に「オーロラの彼方に」って言う映画もあった)ものですが、最近時空ものに敏感な私としてはちょっと気を惹かれてしまうわけです。しかしそれは置いておいて、まずは映画の話。映画としては平均点のストレートなラブストーリーで、登場人物のキャラクターがはっきりとしているのがとてもよい。問題はBGMのこっちが恥ずかしくなるほどのストレートさと映像の作りの安さでしょうか。主役のキム・ハルヌがいかにも70年代らしい顔(どんな顔?)だったのがなんだかつぼにはまりました。ちょっと松たか子似。
 という映画ですが、問題の時空の問題は、実はインのガールフレンドのヒョンジがそのことにさらっと触れていて「同じ次元にいる」とか何とか言っているんですが、これは全くそのとおりで、この映画の中のソウンとインは二人ともまっすぐな時間軸上にいて、その四次元空間から抜け出すことをしない。だから物語とは破綻しない。つまり、インがアクセスした過去は自分にとってのストレートな過去で、現在と矛盾したことをしないからそのベクトルが変化することはなく(あるいはそもそも変化した未来にいるので)、ソウンが異なった未来に向かうことはないわけです。しっかりできていますねハイ。

 注意! ここからパーフェクトネタばれ!!!

 もし、インがトンヒとソンミのことをいわなかったとしたならば、未来は変わったかもしれない。しかし、その未来にはインは存在しないわけだから、インがいまいる時点とは異なるものなわけです。5次元平面の別の点にいる。つまり、どこかでベクトルが変化して、異なった四次元空間が出現したというわけ。しかし、だからといって今ある四次元空間がなくなるというわけではなく、インにとっては一つしかない過去として存在するし、ソンウにとってはありうべき未来として存在していたものということ。あるいは、ソンウがインにもっと前に会って、未来のことを予言していたとしたら、そこでまたベクトルは別の方向に進み、異なった四次元空間が出現していたのでしょう。様々なありうべき可能性の中で、この物語では閉じたひとつの四次元空間だけをつかまえることを選択したということでしょう。その方が物語が混乱せず、すっきりしますからね。そしてヒョンジのほとんど理解できないひとことのセリフにメッセージをこめたということでしょう。意外とやるねこの監督。インとソンウは会っても会わなくてもよかったけど、会うことで本当に物語が閉じたという気がしてよかったようにも思えます。

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