Un Instant d’Innocence
1996年,フランス=イラン,78分
監督:モフセン・マフマルバフ
脚本:モフセン・マフマルバフ
撮影:マームード・カラリ
音楽:マジド・エンテザミィ
出演:ミルハディ・タイエビ、アリ・バクシ、アマル・タフティ、マリヤム・モハマッド・アミニィ

 マフマルバフ監督のもとを訪れたごつい男は、20年前に政治少年だった監督が銃を奪おうと襲った元警官だった。その当時の話を映画に撮ろうと考えた監督は少年役のオーディションを行う。元警官の男も自分の少年役の少年を選ぶのだが、監督と意見が衝突してしまう。
 静かで美しい、しかし緊迫感のある作品。いわゆる映画の映画だが、そこに仕掛けられた様々な仕掛けは並みの映画とは違う。

 この監督の作品はいつも不思議ですが、この作品もかなり不思議な作品。過去と現在が、映画と現実が交錯する。その交錯する瞬間を捉えようとする映画をとる人たちをとる映画。そこに現れる緊迫感の波もすごい。「どうなってしまうのか」という緊迫感がひしひしと伝わる場面がある一方で、全くほのぼのとする場面がある。緊迫する場面の最たるものはラストシーンで、こんな設定でものすごくドキドキしてしまうのが不思議。一方、ほのぼのとするシーンはなんとなく微笑がほほに浮かんでしまう。その中で一番すきなのは、元警官とそれを演じる少年が行進の練習をしながら雪の道を歩いていくところ。それは本当に美しく、ほほえましく、感動的だ。
 なんといえばいいのか、美しい映画は見るものから言葉を奪ってしまうけれど、これもそんな映画。とにかく不思議で、美しく、面白い。「サイクリスト」を見ていると不思議さというのはイランという馴染みのない文化のせいなのかと思うところもあったが、この映画を見るとそんなことは全く関係ないのだと思う。ただ美しい映画を撮るために、理解させるという方法論を放棄してしまった映画。そんな感じすらする。しかしそれはいわゆるアート系の難解さとは正反対のシンプルなもの。なんとなく分かるんだけれど、考えてみるとなんだかわからない。そんな不思議さが映画に浸る気持ちよさを演出していると思う。

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