1967年,日本,94分
監督:増村保造
原作:パトリック・クェンティン
脚本:新藤兼人
撮影:宗川信夫
音楽:山内正
出演:若尾文子、岡田茉莉子、高橋幸治、伊藤孝雄、江波杏子

 雑誌社に勤める柴田健三はタクシーの故障で立ち往生し、近くのスナックに立ち寄った。そしてそこでかつての恋人順子と出会う。昔小説家志望だった健三は順子の紹介で原稿を持ち込んだ雑誌社の社長令嬢に見込まれ、社員となり、さらにはその令嬢と結婚したのだった。それから幾年かの月日が流れていた…
 ミステリーとしての要素と男女の愛憎劇としての要素が共存する増村らしいドラマ。ミステリーとしての要素が強いが、なんといってもすばらしいのは若尾文子と岡田茉莉子の二人。

 もっとどろどろとした愛憎劇が繰り広げられるのかと思いきや、むしろミステリーとしての要素のほうが強い。これは若尾文子演じる道子のキャラクターが増ターらしい強さと激しさを持っているのだけれど、表面に出てくる部分では非常に理知的である。だからあまりドロドロとしない。
 しかし、ミステリーとしてはなかなか優秀で、バランスが取れた作品ということが出来るのだろう。しかし、増村ファンとしてはもっと壊れた、何か奇妙なものが見たいので逆に不満感がたまる。
 さらにしかし、この映画の二人の女性はすごくいい。若尾文子はもちろんいいけれど、岡田茉莉子がそれほど多くない出番でものすごい存在感をみせつける。これに対比される二人の男があまりにさえないというのも二人を引き立てる要素となっているのだろうけれど、それにしても二人がすごい。決して表面的に対立・対決することはないのだけれど、その穏やかな対面のシーンでいろいろなことが頭をよぎる。若尾文子の凛とした表情と岡田茉莉子のはにかんだような微笑。この対面の瞬間にこの映画の魅力は凝縮している。

 それにしても、二人の男がさえないのは増村の計算だろうか? 最初、高橋幸治が棒読みセリフで登場したとき「絶対この人は主人公じゃない!」と思ったが、まんまと主人公で、最後まで棒読みで通し切ってしまった。私はこれは増村の計算だと思う。この役者さんは馴染みがないのでわからないけれど、増村作品によく出てくる人では川津祐介あたりが棒読み系。

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