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1999年,カナダ=イギリス,97分
監督:デヴィッド・クローネンバーグ
脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
撮影:ピーター・サシツキー
音楽:ハワード・ショア
出演:ジェニファー・ジェイソン・リー、ジュード・ロウ、イアン・ホルム、ウィレム・デフォー

 ゲームポッドという人体に直接接続するゲームがあたりまえの時代。天才ゲームデザイナーのアレグラ・ゲラーは画期的なゲーム「イグジステンズ」を開発した。そのはじめての試用会の席でゲラーは奇妙な銃で少年に狙撃される。ゲラーは会場整理をしていたテッドと逃げるが、ゲームに損傷があるかもしれないと言い、テッドに一緒にゲームの中に入ってくれと頼んだ。
 クローネンバーグが相変わらずの独創的な世界観でバーチャルリアリティゲームの世界を描いた近未来SF。クローネンバーグはクローネンバーグだが、ストーリーといいモチーフといいキャスティングといい、クローネンバーグ初心者でもそれほど抵抗なく入っていける作品になっている。逆にコアなクローネンバーグファンには物足りないかもしれない。

 グログロのところはクローネンバーグらしさ万点だけれど、結構入りやすいストーリーとコンセプトがクローネンバーグらしくない。「Mバタフライ」に次ぐくらい一般受けしそうな作品。ジュード・ロウが出ているというのも大きいけれどね。
 しかし、小道具はクローネンバーグらしくていい。こんな世界を描いたので印象的だったのは「裸のランチ」。この映画は原作がバロウズということでストーリーなんてのはないも同然、ただ猥雑で混乱した世界が延々と続くというまさにクローネンバーグの真骨頂という感じだった。それと比べると非常におとなしい。それに、CGと分かってしまうCGを使ってしまったクローネンバーグはいかがなものかと思ってしまう。
 ここまでのところではあまり評価していないように聞こえますが、実のところすごく好き。クローネンバーグにしては分かりやすいといっても、複雑は複雑で、その複雑さが恐怖をあおり、それが映画だけにとどまるのではなくて実際の現実にまで及んできそうな恐怖である。そこがいいところ。実際そんなゲームを体験してしまったら、現実を現実として信じられなくなるのはあたりまえのことかもしれない。そしてゲームの中ではまだ自分がゲームの中にいるのかどうか信じられなくなるということも。この虚構と現実という普遍的な対立をゲームというメディアを使ってうまく消化し、しかも非常にこなれたストーリーで描いた作品といえる。
 だから、この映画はコンセプトとストーリーテリングが非常に優秀で、クローネンバーグ的な部分をうまく覆っている。だからそれなりにクローネンバーグらしさを発揮しながらもちゃんとしたエンターテイメント作品に仕上がっているわけだ。この辺は微妙なところで商業主義に走ってクローネンバーグらしさを失ってしまったと見ることも出来るが、私はストーリーテラーとしてのクローネンバーグとカルトな映像作家としてのクローネンバーグがうまく融合したものと考えたい。

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