1965年,日本,93分
監督:増村保造
原作:吉田絃二郎
脚本:新藤兼人
撮影:秋野友宏
音楽:山内正
出演:若尾文子、田村高廣、千葉信男、紺野ユカ、成田三樹夫、殿山泰司

 いやいやながら、60過ぎの呉服屋の隠居の妾となって家族を支えていたお兼だったが、その隠居が急死。遺言通りに大金を受け取って、母と田舎に帰ったが田舎の人たちは彼女らに冷たくあたり村八分同然の扱いを受けた。しかし、そんな中隣りの清作が模範兵として復員する。清作は周囲の反対を押し切って、お兼と夫婦になろうと考えるのだが…
 女の執念を描いたいわゆる「増村的」映画。共同体・個人・女という伝統的な日本の社会構造の問題点をえぐる秀逸なサスペンスドラマ。

 この頃になると増村はかなり真摯に社会を捉え、それを描こうとしているように見える。そして特に「女」についてさまざまな物語を描いている。そしてその女はどこか恐ろしい「強さ」を持っている。この映画の主人公お兼もそんな「女」のひとり。
 何といっても若尾文子の圧倒的な存在感。主人公の感情の起伏が見ている側にまでうつってしまうような濃密な緊張感がそこにはある。  そして秀逸なのはストーリー。日露戦争という時代。世間・共同体と個人、時代をおって変化するその関係性を「女」というこれまた時代とともに変化する存在から描いたある意味ではサスペンスフルな物語。
 増村作品は後期になるとこういったどろどろした話が多くなってくるが、その展開は相変わらずめまぐるしい。これもやはりいらないところはばっさり切ったという印象だ。つまり、映画の長さに対して物語の量が多い。時間の流れ方が早い感じがする。それによって、「青空娘」は軽快にとんとん拍子で話が進んでいくという印象になったが、こちらは物語が凝縮されたという印象になる。どちらにしても90分という時間はあっという間に過ぎ、幸福な充実感が残った。

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