Ghost Dog: The Way of the Samurai
1996年,アメリカ=フランス=ドイツ=日本,116分
監督:ジム・ジャームッシュ
脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:ロビー・ミューラー
音楽:Rza
出演:フォレスト・ウィテカー、ジョン・トーメイ、クリフ・ゴーマン、ヘンリー・シルヴァ、カミール・ウィンブッシュ、イザアック・ド・バンコレ

 ジム・ジャームッシュが武士道についての本「葉隠」を題材に、ゴースト・ドッグと呼ばれる殺し屋を描いた物語。さすがに、ジャームッシュらしく、単なるアクション映画にすることなく、ユーモアと不条理をそこに織り込んである。
 いつものことながら、登場人物たちのキャラクターがすばらしく、アニメ好きのマフィア、フランス語しかしゃべれないアイスクリーム売り、犬、鳩、ボスの娘。
 この作品ののすばらしいところは、単なる日本かぶれではなく、「日本」という要素をうまく扱って自分の世界にはめ込み、オリジナルな世界を作り出したところ。ジャームッシュ作品の中でも指折りの名作だと思う。

 「葉隠」という本は正しくは「葉隠聞書」、享保元年(1716年)に山本常朝が口述したもの。三島由紀夫が「葉隠入門」という本を出し、有名になった。
 それはそれとして、ジャームッシュの映画を見て、いつも感心させられるのは、登場人物のキャラクターだ。まず、年寄りばかりでアニメ好きのマフィアというのが素晴らしい。しかも家賃をためている。言われてみればいそうなものだが、普通の映画には出てこない。そして、フランス語しかしゃべれない、アイスクリーム売りというのも素晴らしい発想。そして、ボスの娘も。頭が弱いといわれながら、本当は登場人物の中でもっとも明晰なんじゃないかと思わせる。かれらの心の声は直接スクリーンは出てこないのだけれど、それがなんとなく伝わってくるところがジャームッシュの素晴らしいところ、そして不思議なところ。
 ジム・ジャームッシュは本当に日本が好きで、ストレンジャー・ザン・パラダイスの小津安二郎ばりのローアングル・長回しに始まり、ミステリー・トレインの永瀬正敏と工藤夕貴、そしてゴースト・ドック。この映画では、黒沢明が最後にクレジットされているが、これはジャームッシュのKUROSAWAに対する弔意の表明だそうだ。水道管越しに撃ち殺すというのも鈴木清順の「殺しの烙印」からもらったらしい。
 こんなことを書いていると、マニアな映画に見えてしまうけれど、ジャームッシュの映画は、そのリズムにのっかてしまえば誰もが楽しめる不思議な世界。そしてマニアックに観ようとすればいくらでもマニアな観方ができる映画。この映画も音楽面にマニアックにはまり込んでいく人もいるだろうし、カメラワークの妙にのめりこんでいく人もいるだろう。映画というもののあらゆる面をひとつの映画に詰め込める、ジム・ジャームッシュはすばらしい。

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