The Insider 
1999年,アメリカ,158分
監督:マイケル・マン
脚本:マイケル・マン、エリック・ロス
撮影:ダンテ・スピノッティ
音楽:ピーター・バーク、リサ・ジェラード
出演:アル・パチーノ、ラッセル・クロウ、クリストファー・プラマー、ダイアン・ヴェノーラ、フィリップ・ベイカー・ホール

 巨大タバコ産業の誤謬を暴こうとするテレビマンのバーグマン(アル・パチーノ)とその内部告発者として白羽の矢を立てられたワイガンド(ラッセル・クロウ)の苦悩を描いた物語。実際にあった事件を映画化し、すべての人物が実名で描かれている。
 派手にストーリーが転がっていくわけでも、銃撃戦やカーチェイスがあるわけでもないけれど、引き込まれる物語。重たく、説得力のある展開。そのような展開のなか、視覚と聴覚を目いっぱい揺さぶってくる。カメラワークはもちろんのこと、音楽だけにとどまらないさまざまな「音」が映画の臨場感を高め、観客の精神を緊張させ、物語へと引き込んでいく。
 そして、クローズアップで映し出されたラッセル・クロウの、アル・パチーノの、クリストファー・プラマーの、「顔」が、その表情が、言葉以上の言葉を語っている。アカデミー賞は取れなかったものの、20キロ以上も太り、髪を薄くし、白髪に染めたラッセル・クロウの演技は鬼気迫る迫力があり、まさに「アカデミー級」の演技。

 ラッセル・クロウの縁起の見事さに尽きるこの映画だが、なかでも、妻子も家を出て、バーグマンにも裏切られたと考えてこもっていたホテルの一室で、ホテルの壁に幻燈のように歪んだ風景が浮かびつづける場面での、超アップでの縁起は絶品だった。大きなスクリーンいっぱいに、額から口までがいっぱいに映り、顔の筋肉がヒクヒクと動く姿が見える。目も血走り(どうやってやるのだろう?)、唇は乾き、見ている側にまで緊張感がうつってしまうような演技。まさに絶品。
 他にこの映画で特筆すべきなのは、音の使い方だろう。たくさんのパトカーに護衛されて裁判所に向かうワイガンドが車に乗ってから、次の丘の上にその一行が見えてくるシーンまでの間の一瞬の無音の時間。そのシーンをはじめ、観客の緊張感を高めるような音の演出が随所に見られて、映画としての完成度を高めていたように思う。
 これは余談だが、この映画では誰一人タバコを吸う人が出てこなかった。当然といえば当然かもしれないが、なかなか凝ったことをするという感じ。ちなみに、ラストシーンで、アル・パチーノがドアを出て、コートの襟を立て、おもむろにタバコ(できればクール)を取り出して、ぱっと火をつけるところ(のアップ)で映画が終わったら面白いかもしれないと、勝手に思ったりしました。

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