月に囚われた男
2010/6/4
Moon
2009年,イギリス,97分
- 監督
- ダンカン・ジョーンズ
- 原案
- ダンカン・ジョーンズ
- 脚本
- ネイサン・パーカー
- 撮影
- ゲイリー・ショウ
- 音楽
- クリント・マンセル
- 出演
- サム・ロックウェル
- ケヴィン・スペイシー(声)
- ドミニク・マケリゴット
- カヤ・スコデラーリオ
月の裏側で発見されたヘリウム3は地球のエネルギー危機を救い、ルナ産業は大成長。そのヘリウム3を採掘する基地に3年間ひとりで勤務するサム・ベルはまもなくその期間を終えようとしていた。しかし孤独感から幻影を見るようになっていたサムはヘリウム3の回収に向かう途中で事故を起こしてしまう…
ダンカン・ジョーンズの長編デビュー作。本格的なSFミステリーでSFファンならずとも楽しめるはず。

この作品はなるべく内容を知らずに見たほうがいい。別にびっくり!とかどんでん返し!とかがあるわけではないんだけど、最初に「なんでだろう」と疑問に思ったことが物語が進んでいく中で解けて行って「なるほどなるほど」と思えるので、予備知識がないほうがそのカタルシスを感じられていいのだ。
となると、書けることもあまりなくなってしまうのだが(ネタバレなレビューは後半に書きます)、この映画のよさは徹底的にミニマルなSF世界の構築の仕方だ。登場人物はほとんどサム・ベルとロボットのガーティだけ。さらに一面砂と岩だけの月世界、基地の中もほとんど白で統一されて色彩がない。この感じは『2001年宇宙の旅』や『惑星ソラリス』を思わせるので、古臭いともいえるのだが、描いているのが未来なだけに古さよりはレトロなスタイリッシュさを感じさせる。
そしてやはり何よりもいいのは物語の深み。詳しいことはかけないわけですが、SFの科学的な部分と人間の不可解な部分をうまく融合させて、「なるほどなるほど」と思わせながら「あれ?これは?」という疑問も残しながら物語が進み、終わる。ロボットのガーティのキャラクターも変な意味で人間くさくて面白い。もちろんSFに違いないのだけれど、起こりうる未来の出来事を描いているという意味で非常に現代的だし、その中で人間とは何かみたいなことを問うているという部分が非常に興味深く、SFというジャンルに囚われずに見て欲しい作品だ。
というわけで、ここからはネタばらしながらレビューしていきます。ので、これから映画見る!ってひとは映画を見てから読んでくださいね。
この物語の面白さを考えてみると、まず事故にあったサムが目を覚ますところあたりから疑問点が増えてぐっと盛り上がってくる気がする。最初から「月の基地に一人だけで滞在するなんてありえない」という疑問があり、その疑問はもちろん重要なわけだが、どんどん疑問が増えていくことで物語りが盛り上がっていくわけだ。
サムが目を覚ましたときの疑問といえば、事故にあったのにどうして見た目は無傷な上に立ち上がれないほど足が弱っているのか?というもの。勘がいい人ならこの時点で目が覚めたサムは事故にあったサムと別人であると気づくわけだが、勘が悪い私は気づかず、あとあと「そうか!」と思うことになる。
そして、次にサムが目覚めるシーン、ここからしばらくのシークエンスはこの映画のひとつのクライマックスであり、一番面白いところだ。クローンものでどちらがクローンでどちらがオリジナルなのかということは常にテーマになるわけだが、この作品はそのさらに上を行く発想であり、そのためにクローンの思考は混乱し、見ているほうもいったい何を基準に考えればいいのかと混乱してしまい、それが面白い。
この作品は別にクローンの是非を問うたりしているわけではない。しかし、現代の科学技術が引き起こす可能性があるさまざまなことの一つを描いてはいるのだ。果たして人類が選択すべき未来とはどのようなものなのか?ということはちらりと考える。
まあ、しかし基本的には娯楽映画だし、それでいい。娯楽映画としての深みの部分でそういうことを考えたり、はたまた人間という存在の不思議(科学では解明できない部分という意味で)を考えたりするのがまた楽しい。
そこでひとつ気づいたことを。サムが最初に幻影を見た時、見えた幻影は15歳のイヴではなかっただろうか? サムはそれ以前に15歳のイヴを見たことがあるはずがない。しかしそれを見てしまうというところに人間の脳の不思議さがあり、これがこの映画が最後まで面白いひとつの理由なのだと思う。
そういえば、監督のダンカン・ジョーンズはデヴィッド・ボウイの息子だそう。まあだからどうってこともないんだけど。

