おと・な・り
2010/3/29
2009年,日本,119分
- 監督
- 熊澤尚人
- 脚本
- まなべゆきこ
- 撮影
- 藤井昌之
- 音楽
- 安川午朗
- 出演
- 岡田准一
- 麻生久美子
- 谷村美月
- 岡田義徳
- 池内博之
- 市川実日子
- とよた真帆
- 平田満
- 森本レオ
古いアパートで隣に住むカメラマンの聡と花屋の七緒、聡は友人でモデルのシンゴの写真を撮って成功したが、風景写真を撮りにカナダに行きたいと考えている。七緒はフラワーデザイナーになるためフランスへの留学を控えている。壁の薄いアパートで互いの音を聞きながら暮しながら一度も顔をあわせたことがない彼らは果たして…
人生に迷う30歳の男女を描いた大人の青春ドラマ。さわやか…
長らく隣に住まい、安普請なために互いの生活音を聞きながら生活している男女。しかし、挨拶どころか顔も見たことがない。隣近所の関係性が希薄化している都会では、会ってもおかしくないようなシチュエーション、物語は穏やかに進み、ふたりの生活は交差しそうでしないまま、それぞれが大きな変化を迎えようとしている。
どちらかといえば岡田准一演じるカメラマンの聡のほうが主になるのだろうか。本当は商業用のファッション写真ではなく風景写真を撮りたい聡が、しかしその決断に踏み切れないというその葛藤が友人である被写体でもあるシンゴの失踪によって表面化してくる。
麻生久美子演じる花屋の七緒のほうは、よく行くコンビニの店員に突然告白されるというエピソードから人生を考える。おとなりのふたりの関係とこれがどう絡んでくるのかと思わせるが、これがなかなか面白い展開になる。いろいろな人生のかけら、それが集まったような物語の展開だ。
どちらにしても、描かれるのは心の揺れ、確固とした自分というものを築ききれず、何を選択すればいいのかに確信がない中で選択することの難しさを描く。30歳という年齢はそんな迷いを多く抱える年代なのだろう。
この映画はそんな心の揺れを描いた映画であると同時に“音”の映画でもある。そもそもこの『おと・な・り』という題名は、「お隣」という意味と「音鳴り」という意味を掛けたものだろう。お互いの日々の生活音に安心感を覚えるとともに、そのさりげない音が記憶に刻まれていく。音でしかないために映像や言葉に表れることはないのだが、それがそこにあることには非常に意味があるし、物語上でも重要な意味を持っている。
そして、写真も大きな意味を持ち、言葉にならない何かをこの映画が描こうとしていることがわかる「運命」という陳腐な言葉で表現される何かがこの映画の肝なのだろう。
最後の展開はやや唐突な気もするが、あーなるほどと納得もできた。これが唐突に感じるというのも含めて、この映画はあまりにヒントが少なすぎるのかもしれない。結構意外な展開があり、そのヒントが実は隠されているのだが、それが隠されすぎていてドカンと大きく展開した後でないとその意味がわからない。わかり安すぎるのもなんだが、わかりにくすぎると、そのヒントの意味があまりなくなってしまう。まああまりそういう謎解き的な観方を観客に求めていないということなのだろうけれど。
市川実日子と岡田義徳というふたりの脇役の人物像があまりに都合よく造形されすぎているように感じるのもそれと同じようなことなのかもしれない。実はこの二人の存在は非常に重要で、単に主役ふたりの物語とするのではなく、主役のふたりはあくまでも無数にいる30歳のうちのふたりでしかないということをこの脇役のふたりが際立たせるのだけれど、そのこともなかなかわからない。でもこのふたりの存在感というか雰囲気はとてもいい。美男美女のラブ・ストーリーに終わらないためにこの二人の存在というのは非常に重要だったと思う。
