河内山宗俊
2010/2/27
1936年,日本,82分
- 監督
- 山中貞雄
- 原作
- 山中貞雄
- 脚本
- 三村伸太郎
- 撮影
- 町井春美
- 音楽
- 白木義信
- 出演
- 河原崎長十郎
- 中村翫右衛門
- 市川扇升
- 山岸しづ江
- 原節子
- 市川莚司(加東大介)
とある宿場町、賭場を仕切る河内山宗俊の所に甘酒屋のお浪が弟を探しにやってくる。その弟は甘酒屋にやってきていたお侍の金束を盗んでいた。その弟は名を偽って宗俊と仲良くなり、花魁になっていた幼馴染に再開する。
山中貞雄が実在の人物河内山宗俊をモデルに市井の人々を描いた群像時代劇。
物語はなんとなく始まる。宿場町に店を出している可憐な甘酒屋の娘お浪、そこを取り仕切る親分の用心棒をしている浪人者の金子もお浪のところからはショバ代をとろうとしない。そのお浪の弟直次郎は賭場に出入りするやんちゃな若者で、甘酒屋に立ち寄った金子の知り合いの武家の金束を盗んでしまう。
その直次郎は賭場をやっている河内山宗俊と仲良くなり、一緒に花街へ、そこで幼馴染が花魁になっていて、そこの親分に身請けされようとしていることを知る。
直次郎はしょうもない奴だが、金束を盗まれたという武家もやな奴で、それは金子の態度からもわかる。河内山宗俊も賭場をやって、詐欺も働くような奴なわけだけれど、どこかで義理人情のようなものを重んじていもする。
その宗俊の賭場に出入りする健太というのがまた中途半端な人買いのような仕事をしている中途半端な男、市川莚司(のちの加東大介)がこういう役をやるというのは珍しいのだが、人のよさそうな顔が人をだます役にもはまるのだという気もする。
この物語は骨となるような物語はないままに進んでいく。しかし中心にいるのは常に原節子演じるお浪、男たちはお浪の可憐さに心を打たれ、「守ってやらなきゃ」という思いに駆られる。それによってすべての物語が動いていく。
山中貞雄はそのお浪という役どころを重視し、ぴったりの女優を探したが時代劇部では見つからず、現代劇にいた16歳の原節子を引っ張ってきたのだという。まだまだスターへの一歩すら踏み出していなかった原節子を見出したその眼力もすごい。
一見まとまりがなく、最後まで見ても説得力が内容にも見えるが、市井の人々の姿に非常にリアリティがある。時代劇というと紋切り型のストーリーとステレオタイプの人物設定となることが多いのだが、この作品はそのような典型的な時代劇ではなく、普通の時代劇では阿嘉中スポットが当たらないような人々を描き、現代にも通じる人間ドラマとして成立させている。
人のみならず、その場の情景というものもとてもいい。美術なんかは必ずしも質は高くなく、雪のシーンなどはまったくリアリティがないのだけれど、それでもその情景が目に浮かぶし、空気感といったようなものが伝わってくる。あらゆる細部が味わい深く、おそらく観るたびごとにその見え方が変わってくる。単純なようでいてすべての瞬間に登場人物たちの心理が複雑に絡み合う。そんな映画だ。
