マイ・ライフ、マイ・ファミリー
2010/2/8
The Savages
2007年,アメリカ,115分
- 監督
- タマラ・ジェンキンス
- 脚本
- タマラ・ジェンキンス
- 撮影
- モット・ハップフェル
- 音楽
- スティーヴン・トラスク
- 出演
- ローラ・リニー
- フィリップ・シーモア・ホフマン
- フィリップ・ボスコ
- ピーター・フリードマン
アリゾナ州に暮らすレニーは認知症の症状が出始め、長年連れ添った恋人も失って、息子のジョンと娘のウェンディが呼ばれる。ふたりは子供のころの記憶から父親のことをよく思っておらず、ジョンは適当な老人ホームに入れようとするが、ウェンディはそれに反対する。結局ジョンの言うとおり老人ホームに入れるのだが…
ローラ・リニーとフィリップ・シーモア・ホフマン共演のヒューマン・ドラマ。渋い配役だけに渋い仕上がりだが悪くない。
なかなか思い通りに行かない人生を送る兄妹とずっと疎遠だった父親、父親の認知症がきっかけで家族は再び集まるが、昔の父親の仕打ちは兄妹の心に深く突き刺さり、なかなか家族らしさを取り戻すことはできない。
そんな家族の物語なわけだが、その中心となるのはそんな父親と再会した兄妹が抱える心の問題である。妹のウェンディはその父親の問題が持ち上がる前から何度も「中年の危機」という言葉を使う。これは中年という年代に差し掛かり、終わりが見えてきてしまったことへのあせりを意味しているのだろう。この兄妹はいわゆるアラフォーだがふたりとも結婚もしていないし、子供もいないし、人生の進む方向性が見えているようでもない。果たして父親の問題はそんな彼らの人生にどのような影響を与えるのかというのが展開の中心になりそうだ。
彼らが父親を素直に受け入れ、親身になって世話をできないのは父親が昔したという仕打ちのせいだ。その内容は明らかになら(兄弟の間ではいう必要もないことなので)が、それがドメスティックバイオレンスのようなものであったろうことは想像がつく。そして、その影響は兄のジョンのほうに強く残る。ウェンディはその記憶に傷つきながらも、いまの父親には十分な介護を与えたいと考える。しかしジョンはそれを自己満足、父親のためではなく自分のためにやっているのだと断言する。
彼らは家族の温かみというものを知らずに育ったのだろう。家族というのはわずらわしいものだと感じ、自分の人生は自分ひとりで築くものだと考える。というよりは自分以外の誰かが人生に干渉してくることに対して恐怖心を抱いているのだろう。だから常に攻撃的で辛らつだ。それでも兄弟の間には思いやりがあるのだが、時に衝突する。
この作品で印象に残るのは、ウェンディ、ジョン、そしてラリーが車から外を見つめながら思いにふける場面だ。彼らが何を思っているのかはもちろんわからない。しかし、そのぼんやりとした視線の奥に潜む感情のかけらは感じ取ることができる。象徴的なのは兄妹が言い争っているときに、父のレニーが補聴器の音量を絞って外を見つめるシーン、彼らはこのようにして家族であれ他人の存在を締め出し自分の殻に閉じこもる。
このような彼らが心に抱える問題、それがどんどんと顕わになっていくのだから、話としてはかなり重く、なんともやるせない気分になる。しかしローラ・リニーとフィリップ・シーモア・ホフマンはそこにユーモアを忍ばせ、決して楽観的にはなれない物語であるにもかかわらず親密さや温かみをにじませる。物語が結末を迎えても何かが劇的に変わるわけではない。しかし、さまざまな状況をかみ締めながら一歩一歩進んでいかざるを得ないのが人生、そんなことを無言で語っているようだ。
この地味さでは日本で劇場公開されなかったのは仕方のないことだ。しかし映画好きにはじんわりと響く作品だろうと思う。
