東京のえくぼ
2010/1/27
1952年,日本,87分
- 監督
- 松林宗恵
- 脚本
- 小国英雄
- 撮影
- 小原譲治
- 音楽
- 服部良一
- 出演
- 上原謙
- 丹阿弥谷津子
- 柳家金語楼
- 清川虹子
- 小林桂樹
- 高峰秀子
- 古川ロッパ
河上伸子は入社試験に向かう途中にスリにあうが、入社試験は見事合格、晴れて紀伊国屋物産の社長秘書となる。しかし、実はスリの犯人と名指しした男がその社長。伸子は困惑するが、その社長がただはんこを押すだけの日々に嫌気が差していることを知る…
社長シリーズなどを監督した松林宗恵の監督デビュー作。脚本がなかなかだと思ったら小国英雄だった。
江戸時代から代々続く大会社の社長が書類もよく見ずはんこを押し、結婚式や葬式やパーティーや宴会に出席しては挨拶をするばかりの生活にほとほと嫌気が差してしまう。入ってきたばかりの秘書がそれを察してひそかに社長をそこから解放してあげるという話。
庶民の生活を知らないお金持ちがいきなりそんな生活に飛び込んだことによっていろいろなことが起きるコメディというわけだ。まあそんな話はたくさんある。映画でもいろいろあるし、落語の“若旦那”ものなんかも典型的なそれだ。
で、この映画もその文法を忠実に踏襲し、世間知らずの上原謙が下町の貧乏一家に厄介になっていろいろな初体験をするという話。男女が逆になった『ローマの休日』というべきか、ともかく上原謙のでくのぼうぶりが堂に入っていてなんともいい。
なかなかよく出来ているなと思ったのは、社長とうっかり呼んだときにばれないように左千夫(さちお)っていう名前にしようと取り決めるところとか、伸子の弟妹に映画に行ってらっしゃいと言うときに兄弟で洋画がいいだのちゃんばらがいいだの言い争うところとかそういう細かい部分。繰り返し々語られてきた素材であり、繰り返されてきた物語であるだけに、そういった細かい部分にリアリティがあると、全体にも説得力が出てくる。
あとは、懐かしい東京の風景が楽しめるのもこの頃の映画でロケ撮影が多いものの楽しみの一つだ。冒頭に登場する有楽町、途中で出てくる相生橋、その風景の今との違いに「おぉ」と思うのもまた一興。
そして、脇役として高峰秀子と小林桂樹というビッグネームが登場しているところにも注目したい。それは、この作品が新東宝の製作であることに大きくよっている。新東宝は東宝の労働争議(いわゆる東宝争議)に際して東宝をでた役者や監督・スタッフ達によって設立された会社、その母体は十人のスターで作られた「十人の旗の会」であり、高峰秀子はそのメンバーの一人だ。
まあだからなんだと言うこともないのだが、この脇役の存在感がなかなかすごいので、そんなことを思ってみたりした。この頃の日本映画は面白いけれど、映画本体とは関係ないところで製作会社同士の駆け引きとか、スターをめぐる争いとか、そんなエピソードに事欠かない。そういうのも面白いと言えば面白いからたまに書くけれど、まああまり関係ないといえば関係ない。
そんなことを知らなくてもこの作品は面白い。
