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路上のソリスト

散漫な物語から見えてくる現実、感動できないヒューマンドラマ
★★★.5-

2010/1/7
The Soloist
2009年,アメリカ,117分

監督
ジョー・ライト
原作
スティーヴ・ロペス
脚本
スザンナ・グラント
撮影
シーマス・マッガーヴェイ
音楽
ダリオ・マリアネッリ
出演
ジェイミー・フォックス
ロバート・ダウニー・Jr
キャサリン・キーナー
トム・ホランダー
preview
 LAタイムズにコラムを書く記者のスティーヴ・ロペスは路上でバイオリンを弾く自称ジュリアード出身のナサニエル・エアーズがコラムのネタにならないかと彼に近づく。最初に書いたコラムに反響があり、ナサニエルの人柄にも好感を持ったスティーヴは彼がその才能を発揮できるよう手助けしようとするが…
 全米で話題となった連載コラムを映画化。精神疾患とホームレスという社会問題を扱いつつヒューマンドラマに仕上げる。
review

 今はホームレスとなっているが元は天才音楽家、ジュリヤード音楽院に入学したものの2年でドロップアウトしてしまったというナサニエル。彼を見つけ、彼の天才に触れたスティーヴは彼が何とかその才能を生かして社会に戻れないかと奮闘する。

 スティーヴがナサニエルに本格的に入れ込むようになったのは、一緒にオーケストラのリハーサルを聞きにいったとき。映像では、目を閉じて音楽に聞き入るナサニエルの頭に浮かんだ(であろう)イメージを抽象的なグラフィックとして流す。スティーヴはそのナサニエルを見ていたく感じ入り、その夜、元妻で同僚のメアリーに熱く語る。

 この部分はすごくいいと思う。ナサニエルが浮かべるイメージを映像化するという試みも成功していると思うし、スティーヴの興奮もしっかりと伝わってくる。音だけではなかなかわかりにくいナサニエルの才能への感覚をスティーヴと共有できるのだ。

 ただ、プロットは凡庸だ。実話に基づいているということで緩和されはするが、これが書かれたシナリオだったとしたらちょっとありきたりすぎる。特に、スティーヴがナサニエルを何とか社会に戻そうとする辺りはどうかと思う。彼はナサニエルが名声を得たりしたいと思っているのかもしれないが、彼のその価値観の押し付けの仕方が非情にいらだたしい。ナサニエルはここに描かれているのを見る限り統合失調症だろう。だから即、直さなければならないと思い込む偏狭さ、相手の感情を無視する傲慢さ、それがなんとも醜い。

 最後までスティーヴの思い通りにはならないのでまあいいのだが、それでもスティーヴが自分の傲慢さを改めたようには思えない。違いを受け入れはするけれど、それによって自分を省みはしない。

 まあしかし現実とはそういうもの。ひとりの人間との出会いで価値観ががらりと変わることなんてそうあるものではない。しかもスティーヴにとってナサニエルは友人であると同時に(あるいはそれ以前に)お金を稼ぐための手段でもある。物語としての面白みを犠牲にしてまで、その世知辛い現実をしっかりと盛り込んだと頃がこの映画のいいところだ。その分、散漫な印象になってしまうのは仕方が無い。

 LAの街の現実(もちろん演出されたものであるけれど)が描かれているのもいい。支援センターの近くの状況というのは日本に住んでいるわれわれには想像しにくいものだ。アメリカの貧困やドラッグの問題の根深さを否応無く知らされる。

 この映画はそんな社会問題を解決へと向かわせる類の映画ではない。しかしホームレスといういわばエイリアンに近い他者と向き合うことの意味を教えてくれはする。まったく違う環境に生きる者を理解不可能と見がちなわれわれへの警句ともなりうるというわけだ。

 事実に基づく物語を映画的なシナリオに組みなおすのではなく、散漫な物語はそのままで映像的な工夫などによって映画として成立させようという姿勢がこの映画にはあると思う。もちろん、ジェイミー・フォックスとロバート・ダウニー・Jrの好演もそれを助けている。「面白かった!」という感想がでるような映画ではないが、私は好きだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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