キング・コーン 世界を作る魔法の一粒
2009/12/16
King Corn
2007年,アメリカ,90分
- 監督
- アーロン・ウールフ
- 脚本
- イアン・チーニー
- カート・エリス
- ジェフリー・K・ミラー
- アーロン・ウールフ
- 撮影
- イアン・チーニー
- サム・カルマン
- アーロン・ウールフ
- 出演
- イアン・チーニー
- カート・エリス
親友のイアンとカートは食生活について調べるうち自分の体のほとんどがコーンでできていることを知る。ふたりはコーンについてもっとよく知るためアイオワに1エーカーの土地を借りてコーン栽培をして見ることに。その過程でアメリカのさまざまな側面が見えてくる…
コーンからアメリカ社会を見るインディペンデント系ドキュメンタリー。軽そうなイメージとは裏腹に重いテーマをじっくりと考えさせる。
髪の毛の分析結果から自分の体のほとんどがコーンで出来ていることを知ったイアンとカート、別にとうもろこしばかりを食べているわけではなく、コーンが原材料のさまざまな食料品を食べているし、食肉の飼料もほとんどがとうもろこしだからだという。そこでイアンとカートはコーンを育てて見ることに。
現在の農業は完全に産業化し、農地は広大に機械も巨大に、収量は飛躍的に増えている。彼らが体験する農業を見て驚くのはすべてがきっちりと計算されて生産されていることだ。化学肥料の量、植えつける間隔、除草剤をまくときの機械のスピードなどすべてが計算され、その通りやれば誰にでも同じとうもろこしが出来るというのだ。しかも1エーカー(4047㎡)の植え付けはわずか18分、遺伝子組み換えにより特定の除草剤に対する耐性が出来ているので除草剤の散布も1種類をほんの数回撒けばいい。
そのあまりのオートメーション化に驚きはするが、まああくまでも予想の範囲であり、この作品の焦点はそこにあるわけではない。ここで重要になるのはアメリカでのコーンの生産量がとてつもなく過剰であるということだ。作られるコーンのうちそのまま人の口に入るものはほとんどなく、大部分は飼料になったり、さまざまなものに加工される。
まずふたりが向かうのは牧場だ。ここで牛たちはコーンを食べさせられ、太らされわずか半年で食肉となる。牛は本来というもろこしを食べないが、これを食べさせることによってあっという間に成長するので早く出荷できるというわけだ。しかし牛の胃には負担がかかるので抗生物質を与えることになる。うーん…
次に注目したのは高果糖コーンシロップ、あらゆる食べ物に入っているこの甘味料を実際に作ってみる。そしてニューヨークへ行き、これが現代人の肥満や糖尿病の原因となっていることを知る。(このコーンシロップというのは実は日本で開発された技術らしく、日本で果糖ブドウ糖液糖やブドウ糖果糖液糖と呼ばれているものもコーンシロップらしい。果糖は砂糖より甘味度が強く、低温下で甘味度をます。また砂糖より吸収されやすい)
そして実ったとうもろこしを食べてみた二人はそのまずさに驚く。現在のとうもろこしはもはや食糧ではなくさまざまな製品の原材料に過ぎない。そして、そのようになったのは1970年の政策の転換にあるというのがこの映画の最後の展開だ。その転換とは食糧生産の拡大、農家にお金を払って生産を拡大させる、その結果がこのあまりに過剰なとうもろこしの生産につながった。
それがいいのか悪いのかの判断は最終的にはなされていない。それは見る人それぞれが考えるべきことだ。
この作品で一番印象的だったのはさまざまなものの密度である。とうもろこし農家の一人がトウモロコシ畑を「コーンの都市」と呼ぶ。とうもろこしはそれほどまでに濃い密度で植えられ、それでも育つ。そして牛も狭い場所に詰め込まれている。ニューヨークは人と車がひしめき合っている。あれだけ広いアメリカで、どこでもここでも生き物がひしめき合っている、果たしてそんな社会でいいのかどうか、そこが大いに疑問だ。1970年に農業政策の大転換がなされたとこの作品はいう。それから約40年、そろそろ次のパラダイムシフトが起きてもいい、私はそんな風に思った。