シリアの花嫁
2009/11/24
The Syrian Bride
2004年,イスラエル=フランス=ドイツ,97分
- 監督
- エラン・リクリス
- 脚本
- スハ・アラフ
- エラン・リクリス
- 撮影
- ミヒャエル・ヴァースヴェク
- 音楽
- シリル・モリン
- 出演
- ヒアム・アッバス
- マクラム・J・フーリ
- クララ・フーリ
- アシュラフ・バルフム
イスラエルに占領されて以来30年、本国シリアと分断された状態にあるゴラン高原、そこに暮らす人々は無国籍者として生きてきた。そのゴラン高原に暮らすモナはシリアの人気TVスターと結婚することになった。しかしそれはシリアの国籍を取得することであり、もう故郷には戻ってこれないことを意味した…
複雑な社会背景の中で交錯する家族の心情を描いたヒューマンドラマ。主演は欧米でも活躍するヒアム・アッバス。
娘が嫁に行く、そんな単純なことがさまざまな社会的背景によりすごく複雑な問題になる。そこから見えるのはさまざまな争いごとや官僚主義の不合理さ、そしてそれを容易に乗り越えてしまう人間の素晴らしさだ。
ゴラン高原は1967年以降イスラエルが占領下に置くシリア領の地域(国連の認定による)。そこの住人はイスラエルの国籍を取得しない場合はイスラエル政府からは無国籍者として扱われる。そして、この作品の舞台となる村はイスラム教ドゥルーズ派の共同体である。このドゥルーズ派はシーア派の一派であるが、スンニー派ともシーア派とも違う独特の教義を持ち、イスラム教第3の宗派といわれることもある。
花嫁の父ハメッドはイスラエル当局に目をつけられ投獄されたこともある政治活動家、結婚式の日は政治的デモが行われることもあって当局はハメッドの動きに目を光らせる。イスラエルの占領という社会的情勢によって嫁に行く娘を見送ることも出来ないという不条理さ、それを周囲は何とか乗り越えようと奮闘する。
その結婚式のために8年ぶりに帰郷した長兄のハテム、結婚してロシアに移住した彼は故郷の宗教共同体から異端扱いされ(その理由となる教義についてはよくわからない)、彼を受け容れることはハメッドがその共同体から排除されることをも意味する。その不条理さにも家族は立ち向かわなければならない。
そんな周囲からのさまざまな雑音に対処しなければならない上に、長女アマルの夫をはじめとして体面や慣習を理由に新しいことへの拒絶反応を起こす男達が邪魔にもなる。
それでも彼らは結婚式にこぎつけて国境へと向かう。軍事緩衝地帯を挟んだゴラン高原とシリア、大声を出せば会話も出来るようなほんの短い距離を行き来するのに大きな障害が立ちはだかる。その間を仲介するのは国連職員のジャンヌ、彼女は国境を自由に行き来できるのだが、両国の官僚主義により、なかなか手続きを完了させることができない。
この官僚主義の不寛容さ、不合理さというのはもはや笑うしかない。官僚主義を皮肉るという映画は本当にたくさんあるけれど、何度観てもげんなりしてしまう。
この作品は最後にそれを乗り越える、というか「へっ?」という感じでその網をするりと抜ける。その感覚がなんかすごくわかる。規則は規則だけれど、それを四角四面にとらえないで変わった角度から見ると、意外とおかしなところに穴がある。そしてその穴というのは官僚制度というのもあくまで人間が支えているというところから生じる。その穴を抜けるとき、官僚主義という壁の背後にいる人間の顔が見えるようでなんだかほっとする。
この映画は社会的に非常に難しい状況にあるゴラン高原の人々を描いているわけだが、そういう作品だからこそ逆に人間の暖かさとか、人間のいい加減さというものを描くことができたようにも思える。さまざまな“学び”と“気づき”がある良作。
