ロルナの祈り
2009/9/29
Le Silence de Lorna
2008年,ベルギー=フランス=イタリア,105分
- 監督
- ジャン=ピエール・ダルデンヌ
- リュック・ダルデンヌ
- 脚本
- ジャン=ピエール・ダルデンヌ
- リュック・ダルデンヌ
- 撮影
- アラン・マルコァン
- 出演
- アルタ・ドブロシ
- ジェレミー・レニエ
- ファブリッツィオ・ロンジョーネ
- アウバン・ウカイ
アルバニア人のロルナはクリーニング店に勤めながらジャンキーの夫クローディの世話をしている。しかし実はこの夫はベルギー国籍を取得するための偽装結婚だった。国籍を取得したロルナは今度はロシア人と偽装結婚することになっていた。しかしクローディが麻薬をやめることを決意し…
ダルデンヌ兄弟がベルギーに暮らす移民を描いたヒューマンドラマ。いつも通り深刻だが深遠。
麻薬中毒の青年クローディを利用して偽装結婚でベルギー国籍を取得し、それを利用して今度はロシア人と偽装結婚して金を得ようという計画を実行中のロルナ。彼女の望みは恋人のソコルと一緒の暮らすことで、そのために怪しげなブローカーのファビオの言いなりになっている。
しかし、クローディは麻薬から足を洗おうともがき、ついに入院を決意する。しかしファビオの計画はクローディが麻薬で死んでロルナが未亡人になること。その実現のためには極端な手段もためらわない。ロルナはそれを恐れて離婚を急ごうとするが…
この物語の肝は“死”と“生”である。ファビオの計画の成否はクローディの死にかかっており、ロルナはそれを防ぎたい。しかし彼女に力はない。だが彼が死んでしまえば彼女にその責任がのしかかることは明らかだ。ロルナとクローディはどちらもベルギーという社会の底辺にいる存在、それを行ったらファビオもそうなのかもしれない。しかしそれでも彼らは奪い合う。
ダルデンヌ兄弟のスタンスは一貫している。それは人々に対する冷徹なまなざしだ。批判するのでも教訓をたれるのでもなく、ただ冷徹に見つめる。そこに存在するリアルな人々を淡々と描写する。そこから見えてくる社会のリアルを私たちに伝えるのだ。そこにはメッセージはない。あるのは考える余地である。
ダルデンヌ兄弟が提示する社会のリアルな姿は私たちが見る社会と外れている。それは彼らが特殊だからではなく、リアルとは見る人によって異なるものだからだ。そのギャップが見るものにとっての考える余地となる。
この作品がもし、クローディを殺してまで利益を上げようとするファビオを批判するだけのものだとしたら、観る者はその見方に寄り添い、その価値観で社会を見るにとどまる。そこにはある種の感情的な高まりや、社会に対する理解は生まれるが、社会に対するまなざしを研ぎ澄ませることにはつながらない。
映画や物語というのは明確なメッセージをもっていたほうが、それこそメッセージ性があり、私たちが考える材料になると思われがちだが、ダルデンヌ兄弟の作品を見るとむしろメッセージ性なんてものはないほうが、見るものは自分の力で考えるのではないかと思えてくる。
もちろん考えさせられる映画がいい映画とも限らないわけだが、ダルデンヌ兄弟の作品によっていざなわれる思索は私は嫌いではない。この作品で言えば、異邦人として生きること、他人の死を背負って生きること、そして生きること。そんなことを考えさせられる映画を見るのは、時には必要なのではないかと思う。
