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扉をたたく人

扉をたたく人

人種を超えて通じ合う人々、それを阻むのは自分自身の心か?
★★★.5-

2009/8/16
The Visitor
2007年,アメリカ,104分

監督
トム・マッカーシー
脚本
トム・マッカーシー
撮影
オリヴァー・ボーケルバーグ
音楽
ヤン・A・P・カチュマレク
出演
リチャード・ジェンキンス
ハーズ・スレイマン
ヒアム・アッバス
ダナイ・グリラ
preview
 大学教授のウォルターは講義も適当、執筆している本も進まず、趣味で始めたピアノもうまく行かない。そんな彼にNYの学会への出席の依頼が。ウォルターは渋々行くことにするが、NYのアパートについて見るとシリア出身のタレクとセネガル出身のゼイナブが彼のアパートに住んでいた。一度は追い出した彼だったが、思い直してしばらく泊めることに。そしてタレクの叩くジャンベに興味をひかれる…
 9.11後のアメリカの移民たちを人生の意味を失ってしまった大学教授の目から描いた佳作。名脇役リチャード・ジェンキンスがアカデミー主演男優賞にノミネート。
review
扉をたたく人
(C) 2007 Visitor Holdings, LLC All Rights Reserved

 コネチカットの一軒家で暮らす孤独な大学教授。ピアノを習おうとするがなかなかうまく行かず、先生を次々変える。提出が遅れたレポートを生徒の事情を聞こうともせず、突っぱねる。共著でありながら実質的には名前を貸しただけの論文発表のための学会に行くのを渋る。そんなもはや鬱病寸前の初老の男が数年ぶりに訪れたNYのアパートで移民のカップルに出会う。

 彼らに対しても心を閉ざすが、学会の退屈さ、NYという街での孤独がウォルターの心を少し開かせる。

 この映画の一番の魅力は「感じあう心」が描かれていることだ。妻を亡くし、大学という組織の中で心を通じ合える人もおらず、どんどん自分の周りの壁を高く厚くしていったウォルターがタレクとジャンベに出会ってその壁を自ら壊していく。

 本当は仕事などしていないし、退屈でたまらないのだが、大学教授という立場が彼に率直になることを阻む。それはもはや意識せずともとってしまう、自分のみを守るための行動、タレクはそれとはまったく正反対でまったく無防備で開けっぴろげで向き合った相手に楽しさを分け与えようとし続ける。

 人と人とが出会うとき、心を開くことができ、感じあうことができれば、そこには通じ合うものが生まれる。通じあることができれば立場の違いなど乗り越えて人は人として相手を尊重することができるようになるはず。それを阻むのは物理的な壁であったり、人の心の中にある壁であったりする。

 それをウォルターとタレク、ゼイナブ、モーナそれぞれの関係の変化を通して描いていくところのストーリーテリングが絶妙だ。まったく派手さはないけれどこの作品が響いてくるのはそこのところによると思う。ウォルターに人種的偏見がないのも人と人との関係という物語が浮かびやすくなる一因だから、人物像の立て方がいいのだろう。

 ウォルターには人種的偏見がないのはアメリカの「進んだ」人々ならみんなそうだということだろう。にもかかわらず9.11以来、ヒステリックな反応によって移民の置かれた状況は厳しくなった。この作品が描くのはそこのところだ。まあ送還すべき人々を何十年も放っておいたというのもすごい話だが、それをいまさら送還するというのはひどい話だ。何年何十年前の手続きの瑕疵、それがいまさら人の運命を決してしまう。

 そんな制度の不合理さと、人と人とが出会えば分かり合えるという事実。その間の乖離を生むのはいったい何なのか、その疑問は棚上げにされたまま見ている側へと投げ返される。その乖離に本当に向き合わなければならない人には届かないような気もするが、ずしんと来る。

 大人な映画を見たいけれど、子供の心も忘れたくないという人はぜひ。

扉をたたく人 扉をたたく人
(C) 2007 Visitor Holdings, LLC All Rights Reserved
Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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