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イントゥ・ザ・ワイルド

自由を求める若者は魅力的だが、ショーン・ペンの演出はいまひとつ
★★★--

2009/6/22
Into The Wild
2007年,アメリカ,148分

監督
ショーン・ペン
原作
ジョン・クラカワー
脚本
ショーン・ペン
撮影
エリック・ゴーティエ
音楽
マイケル・ブルック
カーキ・キング
エディ・ヴェダー
出演
エミール・ハーシュ
マーシャ・ゲイ・ハーデン
キャサリン・キーナー
ヴィンス・ヴォーン
ウィリアム・ハート
ジェナ・マローン
クリステン・スチュワート
preview
 1992年アラスカ、一人の若者が荒野の中に打ち捨てられたバスで過ごす。遡ること2年前、大学を優秀な成績で卒業したその青年クリスは貯金を慈善団体に寄付し、家族に告げることもなく放浪の旅にである。途中、アレクサンダー・スーパートランプと名を変え、ヒッピーや農場主といった人々と出会いながらアラスカを目指す…
 ジョン・クラカウワーのベストセラー・ノンフィクションをショーン・ペンが映画化した青春映画。
review

 一人の優秀な青年が約束された未来を捨てて放浪の旅に出る。それはよくある話。しかしこの物語の主人公クリス=アレクサンダーは何事にも徹底している。貯金を慈善団体に寄付し、手紙を2ヶ月の間局留めにし、乗れなくなってしまった車はナンバープレートまで慎重に廃棄する。そこまで徹底して彼はこれまでの人間関係と物質社会と決別する。そしてアラスカを目指す。

 映画の構成は彼のたびの目的地であるアラスカでの数週間と彼が旅に出てからアラスカに至るまでの約2年間が並行して描かれる。面白いのは2年間の旅のほうだ。もちろんその面白さの中にはアラスカの彼のたくましい姿にまでどのように成長するかという楽しみも含まれるのだけれど、主に彼がそのたびの中で出会う人々との関係であり、さまざまな困難を彼がどう乗り切ったのかという冒険譚としての面白である。

 だから基本的にはこの物語はエンターテインメントである。いくら事実に基づいていようとこの物語が一人の若者の成長物語として物語性を第一に組み立てられていることは間違いない。それに事実といっても主人公である若者の書き残したものと彼が接した人々の証言があるだけだ。描かれていない部分やあいまいな部分はいくらでも脚色することができるし、物語にそぐわない部分は使わなければいい。

 そんな風に思うのは、この青年があまりにいい奴であまりに順応性が高く、あまりに頭がいいからだ。みんなが彼のことを好きになり、彼もみなに助けの手を差し伸べ、ちょっとした行動や言葉で親しくなった人々を救ってしまう。こんな奴がいたら奇跡か神かと思ってしまうのだが、他方で彼は両親のことになると徹底的にかたくなで描かれたキャラクターとはまったく別の人間のように行動する。

 そのあたりに物語としてのご都合主義のようなものが見えてしまう。彼がこのような人物になりえたのは彼の感応力によるものだろう。他人の欲求や潜在的な望みを感じ取り、それを実現する力、その力が彼には備わっているのだ。そんな彼がその力を両親にはまったく働かせることができない。それが理解できないのだ。

 そしてそれとも関係してくるのだが、演出が全体的に小説っぽすぎるのも難点だ。物語は基本的に主人公クリスの一人語りか、妹のビリーの兄への気持ちの吐露によって展開される。そしてそれは基本的に“言葉”なのだ。もちろん映像は常にあるが、それはあくまでも言葉を補強する道具に過ぎない。

 そしてその言葉に頼った小説っぽさが彼の矛盾を見せないことを可能にしてしまっている。彼を徹頭徹尾いい人間として描くことはラストでカタルシスを観客に与えるためには重要なことだ。しかし、彼はそのような人物ではありえない。その矛盾(クリスが抱える人間的な矛盾ではなく、映画自体が抱える矛盾)を抱えたまま物語が展開されるというのがこの作品の最大の難点だろう。

 と、長々と作品の難点について書いてしまったが、決して悪い作品ではない。一人の若者が文字通り「荒野に入る」というライフスタイルを選んだことには共感できるし、そこで語られる物質主義への批判も理解できる。そしてそのような現代社会が抱える問題を描く手段としてこのような若者を主人公とするというのは面白くもある。

 しかしだからこそ物語の本質である主人公の苦悩とは別のところで気になる部分があるというのが残念だったのだ。やっぱりショーン・ペンは役者のほうがいいのかな。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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