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ネバー・ダイ・アローン

リアルに暗いギャングの世界を描いた犯罪ドラマ。希望のなさがいい。
★★★.5-

2009/5/19
Never Die Alone
2004年,アメリカ,88分

監督
アーネスト・ディッカーソン
原作
ドナルド・ゴインズ
脚本
ジェームズ・ギブソン
撮影
マシュー・リバティーク
音楽
デイモン・“グリース”・ブラックマン
ジョージ・デューク
出演
DMX
デヴィッド・アークエット
マイケル・イーリー
クリフトン・パウエル
アイシャ・タイラー
preview
 街で幅を利かせるギャングの親玉ムーンのところに10年間姿をくらましていた元手下の“キング”デヴィッドが戻ってくる。キングはムーンから盗んだ金を倍にして返すと宣言し、ムーンもそれで手を打つことにする。しかしキングに個人的な恨みがあるらしい手下のマイクはそれでは収まりがつかず…
 アフリカ系アメリカ人で元ギャングの作家ドナルド・ゴインズの自伝的小説の映画化。監督は撮影監督出身のアフリカ系監督アーネスト・ディッカーソン。
review

 ここで描かれるのは結局のところギャングの世界生まれる愛憎である。基本的には金と命=死で結びついたギャングの関係、そこにあるのは常に恐怖と不信、そのような世界で生きるリアリティをこの映画は描く。ギャングを主人公にした犯罪ドラマでながらアクションでもサスペンスでもなく、人間を描いたドラマである。ギャングの内面を描いた物語は暗く、爽快感もなければカタルシスもない。ギャング映画としては異色だが、私はこういう作品は好きだ。

 イタリア系、アイルランド系、アフリカ系、どのギャングをとってもどこかに信心深さがあるのは、やはりリアルで過酷な現実には救いがなさ過ぎるからだろう。恐怖と不信に覆われた生活を送る彼らにとって信じられるのは己と神だけ、それが彼らの生活のあり方を規定する。

 この物語の主人公“キング”愛する女をヤク中にし、自分に縛りつけた上で犯す。その捻じ曲がった愛情表現には嫌悪感を催すが、そうすることでしか女を愛せないことが彼にとってのリアルであり、彼の生活が恐怖と不信に支配されていることの証左だ。ドラッグやセックスという肉体的な快楽に直結する行為によってしか何も証明できない。相手の気持ちというあやふやなものを信じそれによって愛をはぐくむには彼らの人生はスピードが速すぎるし短すぎる。

 だからデヴィッドはカルマ/輪廻に自分の存在を託す。たまたまであった白人の男に自分の全財産と人生を語ったカセットテープを残し、それが息子の手に渡ることをただ信じるのだ。彼が自分と神以外に信じた唯一のものが血のつながりであったというわけだが、果たして血のつながりは恐怖と不信を拭い去って別のものを信じる糧となりうるのか、それがあやふやなままぼかされたこの作品の結末もまたリアルで思慮深さを感じさせる。

 いわゆるドンパチのギャング映画が存在し、そこでわれわれがギャングの行動様式やあり方を知っているからこそ作りうる映画ではあると思うが、ギャングの一面を描いた作品としては非常に面白い。いわゆるギャング映画というのはギャングたちの残虐な一面を描きながら同時に見る側のわれわれと同じような人間として彼らを描いている。ギャングという冷血な世界に生きながら愛という幻影に惑わされてしまったり、うっかり人を信じてしまったりするのだ。

 もちろんそういうギャングもいるだろう。しかしこの作品に登場するギャングたちはまったく違う。恐怖と不信の世界で育った彼らの世界の見方はわれわれとはまったく異なっているのだ。ヒップホップ・ミュージックが流行して以来、ギャングは大衆化してしまった。しかしわれわれは実際にはギャングの何を知っているのだろうか?大衆化されたギャングは娯楽映画の題材になりうるが、本当のギャングの生活は決して“娯楽”では扱えない。この作品のリアリティが語るのはそういったことだ。

 ハリウッドやMTVが死を矮小化してしまった結果、われわれは何を失ったのか? 実はそれがすごく恐ろしいことなのではないかという空恐ろしい感じがこの作品からは漂う。映画の中で言われたように2PAC(ギャングが関わる抗争で殺されたとされるラッパー)は生き返らないのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ2001年以降

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