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ベストセラー

七夜待

★★---

2008/11/1
2008年,日本,90分

監督
河瀬直美
脚本
狗飼恭子
河瀬直美
撮影
カロリーヌ・シャンプティエ
出演
長谷川京子
グウレゴワール・コラン
村上淳
preview
 ひとりタイにやってきた彩子は市場をさ迷い歩いた末、ようやく乗ったタクシーの運転手に宿泊先のホテルの名を告げる。しかし、タクシーはしばらく走った後、森の中で止まり、運転手は彩子にも降りるように促す。怖くなった彩子は森の中を必死で逃げ、フランス人の男性と出会う。
  河瀬直美がホームグラウンドの奈良を離れ、タイを舞台に撮り上げた多国籍映画。明確な脚本はなく、俳優たちは朝一枚のメモが渡され、その指示をもとにアドリブで演じたという。
review

 これはフィクションなのだけれど、ドラマというよりはドキュメントである。しかもそのドキュメントというのがミスコミュニケーションに直面して戸惑う俳優たちのドキュメントであり、言葉の通じない登場人物たちは互いの言っていることが理解できず、俳優たちは手探りで作り上げた自分が演じる人物の気持ちを相手にぶつけるというなんとも不可思議な空間が表現されるのだ。
  それは劇中の人物によって展開されるドラマと、役者の生の表情が交じり合い、その境界があいまいになってしまっている空間、そこに表れるのは女優長谷川京子の戸惑いであり、同時に登場人物である彩子の戸惑いである。コミュニケーションが取れない戸惑いの中で、長谷川京子=彩子は自分から歩み寄るよりもむしろ、周囲が自分に対して歩み寄ることを求める。それが非常にいらだたしい。
  その彩子もマッサージに触れ、言葉ではなく肉体でコミュニケーションをとることによって少しずつ打ち解けてはいく。しかし、彼女が自分という殻の周りに築いた壁は高く、彼女自身決してそれを打ち崩そうとはしない。唯一心を許したといいうるのが少年トイだが、そのトイが和みつつあった彩子と周囲との関係を再び緊迫させるきっかけを作る。なんともやりきれない展開だ。

 地球に住む人々はバベルの塔を築いた人々の子孫である。人間と人間とはどんなに相手のことをわかったつもりになっても、ちょっとしたことがきっかけでそれが崩壊するということがありうる。この作品で描かれているのは言葉が通じず、根本的にコミュニケーションが成り立っていない人々の間の関係だが、言葉が通じていたとしてもその言葉によって意図する真意が本当に伝わっているということはほとんどない。表面的には確固たるものに見える関係であっても、いつはかなく崩れるとも知れない。そんな不確実性、生きることへの不安、そんなものがこの作品からはにじみ出ているように思える。
  しかし、なんともつかみどころのない作品だ。何かが明確になりそうになると、それはどこかに消えてしまったり、あるいはつかもうとする手から零れ落ちてしまったり、宙に浮いて手の届かないところに行ってしまったりして、観客は深い霧に包まれたような感覚に襲われる。映し出される風景はコントラストの強い光あふれる風景なのに、物語の視界はまったく晴れない。
  ただ、このもやもやとしたところから小さな物語をつむぎだし、観る者それぞれが何かを読み取ろうとすることは可能だ。中心にるのは癒しを求めてタイにやってきた日本人女性の心理ではあるが、同じようにそこにやってきているフランス人のグレッグ、タイ人の親子、謎の僧侶、その誰をとっても物語は見つけうる。
  私はこの観客を突き放すような作り方は好きになれないが、映画というのが作る側と観る側のある種の勝負だと考えることもできる。作り手は作品を通して観る者の感情に波風を立てようとする。観る側はその波風から何かを読み取り、あるいは生み出そうとする。そのような営為を観客に求めるとするならば、この作品には波風を立てる力はあると思う。
  ぜひ気力が充実したときに観てください。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本90年代以降

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