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ベストセラー

キムチを売る女

★★★.5-

2008/5/5
芒種
2005年,韓国=中国,109分

監督
チャン・リュル
脚本
チャン・リュル
撮影
ユ・ヨンホン
出演
リュ・ヨンヒ
キム・パク
ジュ・グァンヒョン
ワン・トンフィ
preview
 中国の田舎町、キムチの行商で生計を立てるまだ小さな息子と二人暮しのチェ・スンヒはある日この土地では珍しい同じ朝鮮族の男に声をかけられる。隣に住む娼婦のひとりにあの男は悪い奴だといわれ、会わないようにしようとするが、男はしつこくやってきて…
  自身も韓国系中国人のチャン・リュルが韓国系中国人の女の日常を淡々と描いたドラマ。韓国アートフィルム・ショーケースの第1回作品として日本で公開された。
review

 この映画は結局のところ、と書いてしまうことがよくあるが、それは私の悪い癖なのかもしれない。「結局のところ何なのか」ということを考えながら映画を見てしまうと、結果的にその映画の本質を見逃してしまうことがあるかもしれない。
  この淡々として静謐なこの作品は、息子とふたり質素に暮らす中国の朝鮮族の女性の日常を描いている。彼女の日常はキムチを売ることに終始し、免許を持っていない彼女は警察に摘発されることを常に恐れている。その間息子は一人であるいは友達と勝手に遊び、夜は息子にハングルを教える。隣には4人の若い娼婦達が住み、彼女達の日常はあくまでも無邪気な若者のそれである。
  となると、ここで描かれるのは変わりつつある中国の変化に取り残された人々、都市にいながら貧しい生活を強いられる人々を描くということになりそうだ。しかし、この作品はそのような社会的なことは一切描かず、ただひたすらにこのチェ・スンヒの日常を描いていく。スンヒはある日同じ朝鮮族の男と知り合い、関係を持つ。息子がガラスを割ったことで知り合いになった男性には仕事を紹介してもらうが、その代償に関係を迫られ拒否する。ある日、警察に商売道具の自転車を没収される。その自転車を別の男から買い戻す。娼婦達が捕まる。
  そのような断片的なことが淡々と描かれるだけで、そこに何らかのメッセージが込められているとはとても思えない。そのようなエピソードから目をそらすと、そこに映っているのは広い空、風にたなびく布やたこ、無機質な壁、ネズミの死骸、野菜などである。
  チェ・スンヒの心に巣食っているのは何なのか。それは子どもへの愛情、孤独、あきらめ、欲望、などの雑多なカオスである。そのカオスを図式化することなど到底出来ない。“結局”彼女の心に巣食っているものはなんだったのか、などと問うことは決して出来ないのだ。

 じゃあなぜこんな映画が作られ、なぜこんな映画を見るのか。
  それは至極まっとうな疑問だが、同時に的外れな疑問でもある。すべての行為に目的があるとしたら、その疑問は当然のものだが、果たして本当にすべての行為に目的があるのか。この映画には隠される形でセックスが頻繁に登場する。映画とセックスの密接な関係というのは昔から言われていることだが、このセックスというものには果たして目的があるのか。もちろん欲望を満たすため、子どもを作るため、といった目的はある。しかし果たして本当にその目的のために人はセックスをするのか。人は何か目的があって映画を作り、映画を見るのか。
  この作品の無機質で淡々とした表情はその“目的”に対する疑念を表しているのではないか。映画はクライマックスという“目的”に向かって構築されなければならないという文法は決して普遍的なものではない。実際この作品のクライマックスはわけもわからないまま訪れ、その結果がどうなったのかもはっきりとはわからない。それはかなり拍子抜けで、見終わっても疑問符が拭えない展開だが、それでいけないという理由はない。むしろ、そのように宙ぶらりんに終わることによってクライマックスに収斂せずに映画全体が平等に印象に残るのだ。
  結論はない。批評も常に結論で終わるとは限らないのだから、

Database参照
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