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フリー・ゾーン~明日が見える場所~

★★★★-

2008/3/28
Free Zone
2005年,イスラエル=フランス=ベルギー=スペイン,92分

監督
アモス・ギタイ
脚本
アモス・ギタイ
マリー=ジョゼ・サンセルム
撮影
ロラン・ブルネ
音楽
ハヴァ・アルベルスタイン
ヤロスラフ・ヤクボヴィク
出演
ナタリー・ポートマン
ハンナ・ラズロ
ヒアム・アッバス
カルメン・マウラ
preview
 車で泣きじゃくるレベッカ、婚約者と別れたばかりの彼女は運転席に座るハンナにどこでもいいから連れてってくれという。ハンナは夫の用事でヨルダンのフリー・ゾーンに行かなければならず、レベッカを連れて行くことに。国境は何とか越えたふたりだったが…
  イスラエルの名匠アモス・ギタイがナタリー・ポートマンを主演に迎えて撮った社会派ドラマ。ドキュメンタリーの名手らしくドキュメンタリータッチで真摯な作品である。
review

 永らくイスラエルでドキュメンタリーを撮ってきたアモス・ギタイはこのところ劇映画にシフトしているが、この作品も劇映画で、ハリウッドスターであるナタリー・ポートマンを主演に迎えている。しかしもちろん彼は商業主義に転じたわけでは決して無い。彼は誰が出よう都、ドキュメンタリーであろうと劇映画であろうと、イスラエルとその周辺諸国の現実を捉え続け、それをスクリーンというキャンバスに刻み付ける。
  今回はイスラエルと隣国のヨルダンを巡る一種のロードムービー、アメリカからイスラエルにやってきたアメリカ人のレベッカがスペイン人の婚約者と別れ、未来の姑と乗るはずだった車にその車を運転するハンナと乗り込み、ヨルダンへと向かう。

 映画はいきなり「子羊、子羊…」と歌う歌で始まり、その曲が一曲かかる間泣いているナタリー・ポートマンの横がををひたすらクロースアップで映し続ける。そのクロースアップは歌がやみ車が動き出しても続き、10分以上にもなる。車が走り出すと、車の中からの風景にレベッカの記憶がオーバーラップし、二重映しの映像のままレベッカが婚約者と別れるに至った会話を映し出す。
  ハンナはヨルダンのフリー・ゾーンに、“アメリカ人”から金を受け取るために行くのだが、そのアメリカ人につながるレイラとの間では「お金を返して」「ここにはない」という水掛け論が展開されて3人は“アメリカ人”がいるという村に向かうことになる。しかしそこでは暴動が起きており、レイラは“アメリカ人”の息子がお金を持っていってしまったと告げるのだ。

 レベッカのクロースアップから始まった映像はその後も車の中から取ったレベッカとハンナの横顔や窓から見える風景や国境の警備員たちを映すばかりで、カメラは車の中にずっととどまる。それは彼女達がヨルダンのフリー・ゾーンで目的の人物レイラと出会ったシーンでいったん止むが、それでもカメラは室内と夜の暗い屋外を映すだけで閉塞感はなくならない。
  しかし、夜にある騒動を経験した翌朝、レベッカはレイラの夫であるサミールと彼の村を散歩する。それは非常な解放感のある映像だ。そしてそれは同時にレベッカが解放されたことをも意味している。婚約者との別れという自分の問題ばかりに目を向けていたレベッカはいやおうなしにイスラエルとそれを取り巻く国々の現実を目にすることで、ある瞬間に突然解き放たれる。
  しかし、レイラとハンナは果てしないいい争いを続ける。映画の冒頭の歌が子羊を食い殺した猫が犬に殺され、その犬が棍棒で殴られ… と永遠にループをえがくように、レイラとハンナの言い争いも果てしなく、どこかカフカ的な不条理さまで感じさせる。
  ラストシーンで、イスラエルとの国境にやってきたところでハンナとレイラは再び言い争いを始め、レベッカは車を飛び出してイスラエルに入り、さらに走り続ける。しかしハンナとレイラは言い争いを続け、エンドクレジットでは夜になっている…

 アモス・ギタイの作品は混沌としていて曖昧で時には退屈である。この作品もその例に漏れず、雲をつかむような感覚に襲われる。しかし、見終わってみるとそのもやもやとした中に私たちが把握していなければならない問題が厳然と横たわっているのだということは理解できる。イスラエルとパレスティナ、そしてその周辺諸国、さらにヨーロッパ、アメリカ、それらの歴史と金と人々のアイデンティティと生活が複雑に絡み合う問題は決して解きほぐすことは出来ない。アモス・ギタイはイスラエル人だが、イスラエルを擁護するのではなく、その問題を複雑なまま見せることでわれわれの目をその問題にひきつけておく。
  ナタリー・ポートマンが出演したのも、より多くの観客をこの映画に動員し、この問題に目をひきつけさせるためだろう。日本ではその目論見は外れて劇場未公開となってしまったが、DVDは発売された。アモス・ギタイは50本近い作品を監督しているが、日本でDVD化されているのはわずか4本(そのうち1本はオムニバス)である。他の作品が上映されるのはオフシアターで行われるレトロスペクティヴや中東地域の作品を特集した上映会だけだ。
  この貴重DVDをみてぜひこの中東地域の現実を感じて欲しいと思う。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: イスラエル

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