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ベストセラー

股旅

★★★.5-

2008/3/18
1973年,日本,96分

監督
市川崑
脚本
谷川俊太郎
市川崑
撮影
小林節雄
音楽
久里子亭
浅見幸雄
出演
小倉一郎
萩原健一
尾藤イサオ
井上れい子
常田富士男
preview
 江戸時代、一宿一飯を求めて旅をする渡世人、たまたまある家で一緒になった源太、信太、黙太郎の3人はつるむわけではないのだが何度も一緒になり、流れ流れてニ井宿・番亀一家の世話になるのだが…
  市川崑がATGに参加して作ったリアリズム任侠劇。任侠ものであるにもかかわらずリアリズムを追求して、ATGらしい異色の作品になっている。
review

 任侠ものというと清水の次郎長に代表される芝居がかった大げさなものという印象がある。それは清水の次郎長が浪花節という話芸から広まった話であり、そこにはたぶんに粉飾が施されているからだ。義理、人情、仁義といったものを純粋で絶対的なものとして描き、裏切り者は決して許さないという美学を貫く、それが任侠ものの鉄則である。
  しかし、実際は人間のやること裏切りもあるだろうし、怖気づくやからだってたくさんいるはずだ。しかも彼らの多くは今で言う不良で親元を追い出された半端もの、立派でない人間だってたくさんいるはずだ。
  この作品はそんな流れ者をリアルに描く。彼らはぼろに身を包み、一宿一飯にありつくために仁義を切る。もちろん恩義を果たして助太刀はするけれど、そこでも無謀に命を賭けるなんてことはせず、自分がやられないように心がける。腕をちょっときられたり、頭をものでぶん殴られればもんどりうって痛がり、戦意は喪失する。ドラマとしては拍子抜けだが、現実はそんなものだ。
  結局彼らは生きるすべを見つけるためにさまよう若者であり、任侠道というのは生きるためのひとつの道でしかない。他に何かいい生き方(それなりに自由で食うに困らない生き方)があれば簡単に腰を落ち着けるだろうし、いい顔の親分に杯をもらうという彼らの目標もいわば一種の就職という感覚なのだろう。
  若者が被写体になると、それは時代を超えたテーマとなる。ここで描かれた流れ者達といまの若者とはもちろんかなり違っているが、その心に抱えている不安や根拠の無い自身というのは共通しているような気がする。この放浪は彼らにとって一種の社会勉強であり、このたびを通して大人になっていくわけだ。もちろんいまの社会とは違って常に死と隣り合わせの厳しい世界ではあるけれど、根本的には変わらない気がする。

 映画としての凄さは任侠をこのようにリアルに描いたことに尽きるが、それを演じた小倉一郎、萩原健一、尾藤イサオの3人も非常に良かったと思う。いまや渋い中年のオヤジとなった3人だが、この頃はそれぞれの個性が際立っていて、その個性がぶつかり合っている。3人組として調和しているというよりは凸凹でちぐはぐな感じがこのテーマにはまっているのだ。このテーマをリアルに描こうとした発想と3人のキャスティングによってこの作品は時代超えて残りうる作品となったと言えるだろう。
  70年代は日本映画の斜陽期、市川崑もこの前年TVで「木枯し紋次郎」を手がけ、テレビ時代の一翼を担ったが、同時に映画界で頑張っていたATGに参加してこのような作品を作るあたりはさすがというところだろう。TVはあくまでTVであり、お茶の間で見る作品を作るところだ。このようなとんがった作品はTVではなく映画で作るべきで、そのような映画の特性によって日本映画は70年代80年代という苦難の時期を乗り切った。市川崑はこの時代に数少ない巨匠の一人として映画界を引っ張り続けた。市川崑の作品群を見ていると、日本映画の戦後史が見えてくるようだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本60~80年代

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