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ぼくの好きな先生

★★★★-

2008/1/28
Etre et Avoir
  2002年,フランス,104分

監督
ニコラ・フィリベール
撮影
カテル・ジアン
ロラン・ディディエ
音楽
フィリップ・エルサン
出演
ドキュメンタリー
preview
 フランスの田舎の小さな小学校、小さな子供から6年生までの十数人の子供がひとつの教室で学ぶ。この学校のロペス先生は、小さい子供にアルファベットを教えている間、大きな子供には自習させるなどして授業をしている。
  ニコラ・フィリベールが小さな小学校の一人の先生と生徒の日常を描いた心温まるドキュメンタリー・ドラマ。フランスでドキュメンタリー映画として異例のヒットとなり、全米批評家協会賞のドキュメンタリー賞も受賞した。
review

 始まりは雪の中を歩く牛、そして教室をのそのそと歩く亀、牛と亀というのんびりした動物がこの作品のリズムを象徴している。田舎の生活はゆったりと進み、小学校の時間の流れもゆったりとしている。3歳から11歳までをまとめて教えるゴメス先生の授業は生徒ひとりひとりと語りあう授業であり、時に声を荒らげることはあっても決してあせらずじっくりと生徒が学ぶのを助けてゆく。
  そしてカメラはそんな授業を受ける生徒達の表情を克明に写し取っていく。集中している顔、気が散っている顔、いらだっている顔、その表情がなんともいえなくいい。このような“本当の”表情を捉えることができるというのはドキュメンタリーならでわだ。子供達は時にカメラを凝視し、カメラを意識するが、慣れてしまえばいつも通りに戻り、いつも通りの表情を見せる。それはやはり演技している子供達とは違っている。そして時々映る子供達の両親も非常に自然だ。そこで生活しているという安定感がにじみ出ているし、わざとらしく無い生活臭さがそこにはある。
  しかし、この作品はおそらくある程度の演出をした作品ではあるだろうと思う。会話のシーンなどではカメラをセッティングして改めて話をしてもらうなどという準備をしているのだろうなぁと思わせるシーンが結構あった。もちろん映画のためにそのような会話を準備したというわけでは無いだろうが、先生から「これからこの生徒と話をしに行くよ」などという話を聞いて、あらかじめ準備をして撮影をしたのだろうと思う。そのためこの作品にはいかにもドキュメンタリー的なカメラのぶれや動きというものがあまり無い。それがこの映画をドキュメンタリーであるにもかかわらずドラマとして非常に見やすいものにしているのではないかと思う。私はこんなドキュメンタリーの作り方もあっていいと思うが、第三者的な視線を逸脱しているという意味でドキュメンタリーとしてはどうかという意見もあるかもしれないし、同時に変にドラマ的である分、逆に退屈に思えてしまう向きもあるかもしれない。

 しかし、そのようなドキュメンタリーとしての疑問点をカバーして余りあるほどにこの作品は内容がいい。教室のシーン、各生徒に家のシーン、子供達が遊んでいるシーン、遠足のシーン、先生が子供達にあと1年半で退職することを告げるシーン、先生へのインタビューのシーン、そのどのシーンをとってもまったく無駄がなく、しっかりとまとまっている。それはおそらく、このゴメス先生の教室自体が完全にひとつの世界としてまとまっているところに大きな理由があるのではないかと思う。
  十数人しかいない生徒達は互いのことをよく知っており、先生も生徒達のことをよく知っている。主人公の一人とも言える最上級生のひとりジュリアンはあまり勉強ができなくて、家でも間違えて母親に叩かれる。しかしそこには愛情がある。このジュリアンは同学年のオリヴィエと喧嘩をしてふたりで先生に呼び出されるのだけれど、決して仲が悪いわけではなく、おそらく兄弟のような関係なのだろう。10年近く毎日机を並べて兄弟のようにもなるだろうし、そうなったら相手のいいところもいやなところも目に付いて時には喧嘩になる。今はまだ入ったばかりの小さな子供達もいつかはああなるんだろうなぁという兆しを日々の関係の中で見せたりする。
  そんな完全な世界をうまいバランスで切り取った映画もやはり完全な世界を作り上げる。素材の選択の絶妙さといいバランス感覚がこの映画を魅力的な作品にしているのだ。ドキュメンタリーとしてだけではなく、一本のドラマとしても十分に楽しめる作品だと思う。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: フランス

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