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ベストセラー

或る夜の出来事

★★★★-

2007/4/29
It Happened One Night
1934年,アメリカ,105分

監督
フランク・キャプラ
原作
サミュエル・ホプキンス
脚本
ロバート・リスキン
撮影
ジョセフ・ウォーカー
音楽
ルイス・シルヴァース
出演
クラーク・ゲイブル
クローデット・コルベール
ウォルター・コノリー
ロスコー・カーンズ
preview
 富豪のひとり娘エリーは父親に反発して勝手に結婚するが、父親に船に軟禁されてしまい、そこから脱走、父の追っ手を逃れるために夜行バスでニューヨークへ向かう。一方、新聞記者のピーターはくだらない記事を送って編集長にどやされるがとりあえずニューヨークの新聞社に向かうことに。同じバスに乗り合わせたふたりは…
  のちに“スクリューボール・コメディ”と称されることになるジャンルの最初の作品と位置づけられるロマンティック・コメディの古典。アカデミー賞主要5部門を受賞し、フランク・キャプラ、クラーク・ゲイブル、クローデット・コルベールを一気に有名にした。
review

 “ロマンティック・コメディ”というジャンルの映画は今でもハリウッドでは大いに健在で、いまでも年に何十本作られているかわからないわけだが、それらの作品のほとんどがこの『或る夜の出来事』と基本的には同じ構造によって成り立っていることに気づく。もちろんそれは、この作品が全ての“ロマンティック・コメディ”の元祖であるというわけではなく、この時代に盛んに作られた「ボーイ・ミーツ・ガール」という典型的なプロットの恋愛映画の構造が今も継承されており、さらには出会った男女を最初に対立させることでユーモアの要素を加える“スクリューボール・コメディ”に含まれる作品も数多く見られるということである。つまりこの作品は、30年代から40年代に作られた“スクリューボール・コメディ”の元祖であると同時に代表作であるために、そこから発展して行った現在の“ロマンティック・コメディ”の源流と見ることが出来るということだ。例えば『ノッティングヒルの恋人』なんかはその典型だ。

 まあ、そんな堅っくるしい歴史の話はさておき、この作品は今見ても十分に楽しめる作品だ。誤解から生じる行き違いのくり返しによって徐々に引かれながらもなかなか近づくことが出来ないふたりを見事に描き、“ジェリコの壁”によってそのふたりの距離感を見事に表現している。この“ジェリコの壁”は撮影中にクローデット・コルベールが着替える場所がなかったことから、フランク・キャプラが思いついたらしいが、この壁のありようによってふたりの関係が見事に表現される。
  最初この“壁”は文字通りふたりの間を隔てる壁だったのだが、野宿をしたり、ヒッチハイクをしたりという旅程を通して、それは安全や安心を象徴するようなものになって行く。それはふたりを隔てると同時に結びつけ、ふたりは毛布というある種の膜を隔ててつながりあうのだ。このような鍵となるアイテムがあるとスクリューボール・コメディやロマンティック・コメディは面白くなる。例えば『赤ちゃん教育』ではそれは豹の赤ちゃんだった。
  そしてこの作品ではなんと言ってもクラーク・ゲイブルが格好いい。最初はなんだかいやみな男という感じだったが、初めてふたりがモーテルに泊まった翌朝、ピーターは寝坊するエリーの服にアイロンをかけ、朝食を作る。しかもすでにきっちりと服を着込んでいるのだ。この紳士的な態度がなんとも格好よく、しかもエリーに媚びはしない。
  このクラーク・ゲイブルの格好よさが世の男性陣に受けたのは、彼が映画の中でやっていた素肌にYシャツを着るというスタイルが爆発的に流行り、男性用下着の売上が75%も落ち、下着メーカーがコロンビアに抗議したというエピソードにも表れている。ちなみにこのスタイルは用意された下着が大きすぎたためにたまたま生まれたらしい。

 また、この作品は、最初2人の女優に出演を断られ、クローデット・コルベールもギャラがよかったことでいやいや出演したらしい。それはこの作品の男女の関係が当時の男女に対する(特に女性から見た)あり方に反するものだったからではないだろうか。この作品のような気の強い女性を演じてしまったら、そのイメージがついてしまうのではないかと危惧したのだろう。しかし、その構図が受けてアカデミー賞を受賞、新たな映画のジャンルまで誕生してしまったのだから、わからないものだ。
  この作品にまつわるエピソードは偶然が一つのムーブメントを生み出す典型のように思える。それはもちろん作品が面白く、大ヒットすることが前提ではあるのだが、映画が世の中に一つのムーブメントを作り出すというのは映画の黄金時代の特徴だ。30年代のハリウッドがアメリカにムーブメントを生み出したように、昭和30年代の日本でも映画が大きなムーブメントを生み出した。
  この作品は映画としてももちろんおもしろいが、それにまつわるエピソードを様々に知ることで、映画というものの面白さを知ることも出来る作品だ。今は数多いメディアのひとつになってしまった映画が娯楽の王様だった時代、その時代を象徴する作品のひとつなのだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ50年代以前

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