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女性に関する十二章

★★★★-

2006/12/22
1954年,日本,87分

監督
市川崑
原作
伊藤整
脚本
和田夏十
撮影
三浦光雄
音楽
黛敏郎
出演
津島恵子
小泉博
上原謙
有馬稲子
久慈あさみ
徳川夢声
三好栄子
中北千枝子
preview
 長らく恋人同士のミナ子と小平太はなかなか結婚に踏ん切れずにいた。今回も係長に昇進するのを期に結婚しようとする小平太に対して、ミナ子は所属するバレエ団からの脱退という問題を抱えていた…
  ベストセラーとなった伊藤整の同名エッセイの映画化。伊藤整本人も登場し、軽妙なコメディとなっている。軽さの中に考えさせるものがある市川崑らしい作品。
review

 物語としては普通なのだが、その導入として書店で売られているベストセラーが描かれる。それはこの原作となっている伊藤整の『女性に関する十二章』であるが、その本をミナ子が買い、書店のポスターの著者の写真がしゃべりだす。この著者はことあるごとに物語に口を出し、余計な解説を施す。この全体の構造が非常に面白い。
  観客はまずは主人公2人の物語を追うわけで、それはそれでひとつのドラマ(いうなればラブコメ)として成立している。しかし、それが同時に分析され、観客に対して解説される。そしてさらに、登場人物がスクリーンのこちら側に向かって語りかけもするのだ。この主プロットからの脱線はこの映画を完全に作り物であると表明すると同時に、リアルなものにもする。
  一見矛盾しているように見えるこのふたつを可能にするのは、まず伊藤整による解説である。この解説はほとんどの場合には余計で、何を言っていたかもよくは覚えていないが、この解説によってこの2人の物語が一般的な男女の物語の一例でしかないということが明確にされる。「職業女性」が増えて行く中での結婚という問題、当時の若者の多くが抱えていたであろうこの問題のひとつの例としてこの2人はあげられているに過ぎないのであって、これを観ているあなたの問題でもあるのだとこの解説は語っている。だから、この物語は観客にとってリアルなものである。
  たとえ作られてから50年がたち、環境が変わってもこのような語りかけが存在することによって観ている側が自分自身にひきつけて考えることが出来るのだ。

 その一方で、これは映画の外部の世界が存在しているということを示すものでもある。観客を映画の物語世界に引き込むのではなく、観客はスクリーンの外に置いておいて、映画の中には別の世界があるものとして作品を作り上げる。そのようなスタンスが一貫してとられているのだ。そのひとつとして登場人物が観客に対して語りかけるというシーンが挟まれる。
  これによって観客は演じられている物語がフィクションであり、作り物であるということを強く認識することになる。世界はスクリーンで隔てられ、自分はずっと現実にとどまらざるを得ないのである。
  もうひとつスクリーンの存在を意識させるのは、奥行きのまったくない画面が挿入されるシーンである。この映画のほとんどのシーンは奥行きのあるいわゆる普通の風景の中で展開されるのだが、バレエのシーンのように突然奥行きがまったくなくなるカットが挟まれる。このカットの挿入によって観客は映画というものが平面のスクリーンに映し出された幻影でしかないことを思いださせられる。
  なぜ、そのように執拗に観客を現実にとどまらせようとするのかといえば、この物語があくまでも夢物語ではない現実の物語であるからだ。描かれている物語を夢物語として片付けてしまったら映画館を出た後、現実に変えるだけだが、現実との係わり合いの中でこの物語を捉えれば、現実の生活に何かが与えられる。しかも、これは明るい物語である。
  当時、映画館を出た人々がなんとなく明るい気分になって、つらい現実の中にもちょっとした楽しみや希望を見出したのではないか。50年後にこの映画を見ると、そんな人々の姿が目に浮かんでくるようだ。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 日本50年代以前

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