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マダム・オスマン

★★星星星

2006/8/14
Le Harem de Mme Osmane
2000年,フランス=スペイン=モロッコ,100分

監督
ナディール・モネシェ
脚本
ナディール・モネシェ
撮影
アレックス・ラマルク
出演
カルメン・マルラ
ジュスティーヌ・マリー=ジラール
ミリアム・アモルシェン
ビョウナ
preview
 1990年代の戒厳令下のアルジェ、アパートの管理人のマダム・オスマンは店子たちに文句ばかり言って過ごしていた。それもこれも、だんなが若い愛人を連れてフランスへといってしまったため。そこにさらに娘のカヒナも結婚すると言い出して、マダムはその意地悪さを加速させる。
  内戦下のアルジェに暮らす女たちの鬱憤を描いたヒューマンドラマ。
review

 今主人公マダム・オスマンは確かにやなやつだ。エゴイストで他人に自分の価値観を押し付ける。しかも下品で遠慮がない。これじゃあ旦那が出て行く気持ちもわかるというものだが、しかし彼女はただただ意地悪な悪魔のような人間というわけではない。彼女は確かにエゴイスティックだが、正義感でもある。まあ、自分の経験の故かもしれないが、愛人をもつ男には容赦なく、女の味方になって男を攻撃する。そして、エゴを通しているように見えて、実は家族のことを深く思ってもいるのだ。しかし、それが表面に出るときには、意地の悪い形でしか表現することができないのだ。

 これはいったい何なのだろうかと考える。物語の終盤、彼女の身には不幸が降りかかる。見ようによっては自業自得とも見ることができるこの不幸だが、別の見方をすればどうして彼女には不幸ばかりが降りかかるのか、その不幸のために彼女は歪んでしまったのではないか。と考えることもできるはずだ。その証拠にこの不幸によって彼女はさらに歪み、狂気の域にまで近づいてしまう。
  私はこのようなことが起きるのは戦争のせいなのではないかと思う。彼女に不幸が降りかかるのは、戦争によって不幸の総量が絶望的に増えてしまったからなのではないか。平和な世の中ならば、彼女も平和に、あるいは平凡に暮らすことができたのかもしれないが、戦争によってもたらされる大量の不幸は彼女にも降りかかってしまう。もちろん彼女以外の女たちにもその不幸は降りかかり、多くの女が不幸に陥り、それが彼女たちを歪ませ、さらに不幸に陥らせるのだ。
  そのような不幸に陥るのがなぜ女なのかといえば(因果応報的なことはあまり言いたくないのだが)、彼女たちは男が戦場で振りまいた不幸の報いを受けているからだ。戦争という不幸を振りまくシステムは男たちが戦場で振りまいた不幸をその後方で耐え忍んでいる女たちに返す。
  まったく根拠はないが、私は不幸の総量というのは決まっていて、どこかでバランスがとられているものなのではないかと思う。誰かが不幸を振りまけばその報いがいつか来る。戦争はその不幸の総量を増し、戦争を続ける両者を平等な不幸で満たしていくのだ。戦争に勝とうと負けようと、それが不幸なものであることに変わりはないのだ。
  この映画から浮かび上がってくるのはそのような絶望的な不幸である。自分ではどうすることもできず、逃れることもできない、しかも底深い不幸、その不幸の中で女たちはあるいは団結し、あるいは自暴自棄にあり、あるいは他の人に八つ当たりして凌ごうとする。しかし、不幸の総量は変わらないのだから、彼女たちは決して不幸から逃れることはできない。
  この映画はそのように絶望的なメッセージを私たちに投げかけるがゆえにやるせなく、いたたまれない気持ちにさせられる。こんな映画は見たくないと思う。しかし、これがあるひとつの真実を語っていることも確かなのだと思う。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: フランス

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