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いつか、きっと

★★★1/2星

2006/8/13
La Vie Promise
2002年,フランス,93分

監督
オリヴィエ・ダアン
脚本
オリヴィエ・ダアン
アニエス・フェスティエ=ダーン
撮影
アレックス・ラマルク
出演
イザベル・ユペール
パスカル・グレゴリー
モード・フォルジェ
アンドレ・マルコン
ファビエンヌ・バーブ
preview
 ニースで娼婦をするシルヴィアは14歳の娘ロランスの面会日にも彼女につらく当たり、仕事に出る。その夜、シルヴィアは元締めの2人の男と言い争い、ロランスがそのうちのひとりを刺してしまう。シルヴィアはロランスをつれて遠くへ逃げ延びようとする…
  中年に差し掛かった娼婦が旅を通して自分自身に向き直って行く姿を描いたフランスらしいロード・ムービー。
review

 この作品には多くの疑問符がまとわりついている。誰?なぜ?何が?どこ? 観客は突然の逃避行に虚を突かれ、多くの疑問符を頭に浮かべながら彼女たちの姿を追う。
  そして、その疑問符の多くは「逃げる」ということに集約して行く。シルヴィアとロランスは組織から逃げている。しかし、本当のところ彼女は何から逃げているのか? 彼女には息子もいて、その父親もいるのだが、彼女にはその記憶がほとんどない。なぜ彼女は記憶を失ったのか。彼女はその失われた記憶の中にある何かから逃げ続けているわけだが、いったいそれは何なのか。
  そしてその旅にジョシュアというもう一人の「逃げる」男が加わる。何かから逃げ続ける3人の逃避行、その旅はロード・ムービーというのが本質的に何かに近づこうとしながら同時に何かから逃げようとしているものであることを思い出させる。シルヴィアは自分自身というものに近づこうとしながら同時に逃げようとしている。あるいは、自分自身から逃げ続ける旅を送り続けてきたシルヴィアは新たな逃避行へと入ることで、逆にその自分自身に近づかざるを得なくなったというべきか。

 彼女が目指しているのはピョートルのところという明確な場所である。そしてピョートルのところとはつまり彼女自身がいた場所、失われた彼女の記憶がとどまっている場所である。他に逃げる場所のなくなったシルヴィアは、その場所を目指す。そして、それは逃げ続けてきたはずの彼女自身を目指す旅なのである。しかし、彼女は記憶を(自ら)失うことで、なぜ逃げていたのかということ自体を忘れてしまっている。だから、彼女は彼女自身の何から逃げようとしていたのかということがこの物語の非常に大きな問題になってくるのだ。
  彼女は自分自身を目指しながら、同時にそこにある何かに大きな不安を覚え、そこから逃げたいと思っている。

 この映画が優れていると思うのは、そのままこの物語が終わるという点にある。人生の暗喩としての旅はそのように終わらなければならない。人生とは欲望の対象である何かに近づきたいと目指しながら、同時にそこに近づくことの不安を抱えた旅であり、その欲望の対象とは究極的には常に自分自身なのだから。
  だからシルヴィアのこの旅はまさに人生そのものなのである。シルヴィアは自分自身という欲望の対象に近づきたいと思いながら、同時に逃げたいと思い、最終的に少し近づくが、結局その対象はその手をするりと逃れる。だからシルヴィアはその対象を追い求める旅を続けなければならない。
  なぜならそれが人生だからだ。
  これまでの人生で彼女はただひたすらその中心にある自分自身から逃げようとしていた。しかし逃げようとしているにもかかわらずその中心にひきつけられ逃げることが出来なかった。逃げるために彼女は記憶を失い、自分自身を失おうとしていた。しかし、彼女は本当に忘れることはできなかった。なぜなら逃げようとすると同時にそれにひきつけられていたからだ。
  しかし、今度は逆に、その中心にある自分自身を否応なく求めるようになった。その中心にある自分自身の幸せを求めて。しかし、それは簡単なことではない。彼女が自分自身を手にするということは大きな苦痛を伴うことであるから。それでも彼女はそれを求め、近づこうとする。そうすれば彼女は幸せになれる。逃げ続ける人生よりは追い求める人生のほうが幸せだからだ。
  究極の幸せとは、その中心にある欲望の対象を手に入れることではない。その中心に近づいていると確信することなのだ。だから彼女はこの旅の末、大きな幸せを手にしたのだ。彼女の記憶の中でおばあさんが言うように彼女は“流れ”を見出し、それが流れ行く先を見つけたのだから。

 この映画のゆっくりとしたペースは観客にそのようなことを考えさせるのではないかと思う。旅、ロードムービー、そして川という繰り返される人生の暗喩はこの映画が人生について語っているということを十分すぎるほど納得させる。

Database参照
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国別・年順: フランス

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