| 主人公はさえない親父、その親父が鬼のような妻に嫌がらせをされる。映画の最初のシーンはその妻ルルがドリルでバケツに穴を開けているシーンで、そのバケツが山羊のミルクを入れるバケツという仕掛け。この程度のいたずらならかわいいものという気がするが、次のいたずらはチーズなどを町に売りに出かけようとする旦那の車のタイヤ(全部)に穴を開けてパンクさせてしまうというもの。これはもういたずらというか、完全な嫌がらせであり、自分にとっても得なことは何もない。
この嫌がらせを見てもわかるようにこのルルというのは旦那が憎くてこんなことをやっているというよりは、何か精神的なバランスが崩れていて破壊衝動を抱えているとしか考えられない。村の人たちに対する態度もひどいものだし、毎日ペットボトル入りの徳用安ワインを2本も飲む。これは自分に対する破壊衝動でもあるのかもしれない。
夫のジョジョのほうはひたすら情けない。そんな妻に卑猥な替え歌で皮肉をいうくらいのことしかできず、あとは山羊と切手と一日一杯の“半ビール”という逃げ場に逃げるだけなのだ。
そのジョジョが殺人の衝動に駆られることで物語りは展開して行くのだけれど、その先の展開はとにかく切ない。特にジョジョのルルに対する気持ち、そして恩師に対する気持ち、この気持ちの切なさはまさに映画でしか表現できないものという気がする。ジャン・ベッケルの演出とジャック・ヴィルレの見た目とそして演技、それがこの可笑しな切なさを生んでいる。作品としては確かにたいした作品ではないかもしれない。しかし、きゅきゅっとところどころで心をつかまれる非常にいい作品だと思う。
ジャン・ベッケルはもちろん名監督ジャック・ベッケルの息子、父親と比べると小物というかこじんまりとした作品を撮っているという感は否めないが、この人には職人的なうまさがあると思う。同じジャック・ヴィルレが主演した『ピエロの赤い鼻』も切なさを称えた少し可笑しい素敵な作品だった。ジャック・ヴィルレは昨年若くしてなくなってしまったのが残念でならないし、ジャン・ベッケルの世界にまさにピタリとはまるジャック・ヴィルレがいないことはジャン・ベッケルにとっても大きな損失だと思うが、この2人が手がけた作品を見ることが出来てよかったと思う。実はもう一作品“Effroyables jardins”という作品がある。これも日本では未公開だが、ぜひ見てみたいと思う。
ジャン・ベッケルもジャック・ヴィルレも数多くの作品を数多くの作品を手がけているのに日本ではその半分も見ることが出来ない。箸にも棒にもかからないハリウッドの駄作を劇場公開するくらいなら、これらの作品をDVDだけでもいいから発売して欲しいものだと思った。
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