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天空の草原のナンサ

星星

2006/5/15
The Cave of the Yellow Dog
2005年,ドイツ,93分

監督
ビャンバスレン・ダヴァー
脚本
ビャンバスレン・ダヴァー
撮影
ダニエル・シェーンアウアー
音楽
ベーテ・グループ
出演
ナンサル・バットチュルーン
ウルジンドルジ・バットチュルーン
バヤンドラム・ダラムダッディ・バットチュルーン
ツェレンプンツァグ・イシ
ナンサルマー・バットチュルーン
バトバヤー・バットチュルーン
preview
 モンゴルの平原で遊牧生活を送る一家、ある日狼に襲われ羊が2頭死んだ。その日、都会の学校に行っている長女のナンサが帰ってくる。ナンサは妹と弟の面倒を見たり、家の手伝いをしながらも遊びたい盛り、牛の糞を拾う道すがら、洞窟から動物の声を聞き、ついついそちらに行ってしまう…
  モンゴル出身のビャンバスレン・ダヴァー監督が『らくだの涙』に続きモンゴル遊牧民を題材に、今度はフィクションとして撮ったドラマ。
review

 この映画に映るのはただただモンゴルの風景であり、モンゴル人の生活である。映画はオーソドックスに始まり、オーソドックスに進む、何かが起こりそうなのだけれど起こらず、少女と家族と拾ってきた犬の日々が淡々と綴られる。
  起伏に富んだ緑色の台地が広がり、青い空が広がり、涼しげな風が吹き、羊たちが草を食む。非常にのどかな風景のように見えるが、長女のナンサは6歳にして一人家族とはなれて街に出て学校に行く。狼や野犬、ハゲワシが増え、遊牧生活を脅かす。人々は遊牧生活を離れた街に出て働くようになり、モンゴルを取り巻く状況はどんどん変わって行っている。
  そのような社会的なメッセージも込めつつ、物語は家族の間の、特に父親とナンサと拾い犬ツォーホルを巡っての物語として展開して行く。それはほほえましく、暖かく、しかし同時に現実の厳しさを感じさせもする物語である。そしてまた、その背後にモンゴルの人たちの心情というか彼らを支える信仰も垣間見えてくる。それは独特ではあるけれど、根本的には変わらない、人間の営みである。モンゴル人は昔の日本人に似ているとよくいわれるけれど、そのような限定をしなくても、彼らの生活には人間の生活というものの原風景があるように思える。
  そして以下にプリミティブな生活をしていようと親と子の関係、人間と人間の関係は今のわれわれを取り巻く関係と変わらない。だからこの映画を見ながら、ナンサの心情がありありと伝わってくるのだ。演技だか素なのかわからないナンサの表情や仕草を観ているだけでハラハラドキドキしてしまうのだ。

 そしてやはり、なんとなくニュースやドキュメンタリー番組で小耳に挟んだような気がするけれど、あまり関心を持つこともなかったモンゴルという国のその現状がスクリーンに展開されるのはそれなりに興味深い。
  また、それを撮ったのがモンゴル出身の監督であり、それがドイツ映画として撮られたという点にも興味をそそられる。モンゴルという国は映画においてはマイナーだが決して映画が作られていないわけではなく、むしろ長い歴史を持っている。ソ連の影響で1930年代にはすでに映画作りが始まり、現在も国際コンクールなどにかなりの数の作品が出品されているのだ。しかし、日本で話題になったような作品はこれまでなく、ドイツ映画という形でこんな作品が世に出る。そこには映画業界の歪んだ現状が透けて見えるわけだが、ビャンバスレン・ダヴァー監督はその歪みを克服して、モンゴルを世界の映画市場に乗せようとしているのかも知れないと思う。
  以前のイラン映画やインド映画のようにいわゆる“オリエンタリズム”の日本的な変形として受け入れられているという面は否めないが、広い裾野を持つなら、(イラン映画のように)ひとつの映画ジャンルとして確固たる地位を築けるはずだ。この作品はそのようにしてモンゴルの映画が日本で広く受け入れられる入り口としては非常にいい作品だと思う。
  この映画の題材になっているモンゴルの変化は世界的な“グローバル化”の潮流の中で起こったことであり、それにはプラスもマイナスもあるけれど、この“グローバル化”によってモンゴル映画が世界に行き渡り、モンゴルという国についての知識が世界中に広まるならば、それはグローバル化のプラスの面の一つであるといえるだろう。グローバル化の波にモンゴルが飲まれないためには、そのようにして自分たちの文化を世界に発信し、世界の中に確固たる位置を確保しなければならない。グローバルな文化である映画は、グローバル化する世界の中でひとつの国や民族や文化が“言葉”を持つのに有効な手段なのだ。いかなる文化もグローバル化によって他文化の影響を受けるのは免れない。ならば、逆にそれを利用して“言葉”を世界に伝えるべきではないか。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: ドイツ

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