更新情報
上映中作品
もっと見る
データベース
 
現在の特集
サイト内検索
メルマガ登録・解除
 
関連商品
ベストセラー

阿片戦争

2005/9/14
鴉片戦争
1997年,中国,150分

監督
シェ・チン
脚本
チュー・スーシン
ニー・チェン
ツォン・フーシェン
マイ・ティエンシュー
撮影
ホウ・ヨン
音楽
チン・フーツァイ
ホアン・ハンチー
出演
パオ・クオアン
スー・ミン
シャオ・シン
カオ・ユアン
ラン・ション
preview
 1838年、英国から密輸される阿片で中毒患者が溢れ、経済的にも危機的状況にあった中国の道光皇帝は林則徐を欽差大臣に任命し広州に派遣、阿片密輸の徹底的な取締りを命じた。林則徐は強硬な姿勢でこの厳命を果たそうとするが、官吏内の腐敗と英国の激しい抵抗でなかなか順調には進まなかった…
 阿片戦争の発端から終結までの全貌を未曾有のスケールで描いた大河ドラマ。歴史の勉強としてはわかりやすく面白いが、エンターテインメントとしては退屈。
review

 この作品は、一つ一つ史実を忠実に拾っていき、そこに含まれるちょっとしたエピソードや衝撃的な出来事をうまく交えて、歴史をひとつの物語に編み上げている。もちろん中国の視点から作られているので、基本的に中国が帝国主義的侵略の一方的な被害者であり、いわば英国の計略にだまされたという捉え方がずっと保たれてはいる。歴史というモノが、見るものによって変わってくるという事はもはやいうまでもない事実であり、ここで描かれている歴史もまた真実であることに疑いはない。阿片戦争という歴史上の事実を中国側の視点から忠実に描くとこうなる。したがって、これはひとつの歴史的事実の叙述なのである。
 そんな中で、林則徐という人物の存在が面白い。ただの片っ苦しい役人、忠義と心理を重んじる賢人、ただ厳しいだけではなく思慮深さも持ち合わせた善人。つまり、彼はここで完全に理想化されて人物として登場している。それは彼の周囲の腐敗した役人たちや高位のない好意の役人たちと対置されている事はもちろん、皇帝自身とも対置されている。彼は肯定の行動をも見通し、しかしその皇帝に忠義を尽くす完璧な宰相なのである。
 彼も知識人の育成を絶やしてはいけないと言っているが、中国という国はヒーローよりも彼のような頂点に立つ人物を支える宰相を理想化する傾向にあるように思える。たとえば『三国志』の中で人気がある諸葛孔明も君主ではなく、ひとりの知将である。それは中国における儒教思想の影響の強さや、それに伴う歴史の深さを示唆するとともに、行動型の欧米との対照性も明らかにする。中国の人々は熟慮を重ねて行動することを良しとしているのに、欧米の人々は即座の行動を求める。この文化の違いが、この阿片戦争においても摩擦を生み、結局中国に不利なほうに転んでしまった。しかし、それは欧米の普遍的な優位性を語っているわけではもちろんなく、たまたまこの時代において、物理的な差によって破れたというだけのことだ。
 中国側の視点から見る阿片戦争によって語られるのはそのようなことだ。

 さて、そのように、歴史上の事実についてしり、そこから中国と欧米の違いを見出すのには、この映画は非常にいい素材となる。阿片戦争の事をちっとも知らなければまず勉強になるし、知っていたとしてもリアルな記憶としてそれが刷新されるだろう。
 しかし、映画としてはかなり退屈だ。2時間半という長い上映時間の中で、これだけ盛り上がりの少ない映画も珍しい。ただ淡々と歴史的事実が語られているだけでそれ以外のドラマはほとんど展開されないのだ。中心となる歴史的事実とは関係ない登場人物として登場する人々も何か別のドラマを展開しそうで、ちっともしない。ただ中国と英国の綱引きの道具に使われて振り回されるだけなのだ。そのあたりのドラマの弱さが、どうも映画としての面白さを減じているような気がしてならない。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: 中国

ホーム | このサイトについて | 原稿依頼 | 広告掲載 | お問い合わせ