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四つの恋の物語

2005/6/28
1947年,日本,112分

 
            
     
 
 恋をテーマにした4人の監督による四つの作品を集めた短編集。第1話が学生同士の初々しい恋を描いた「初恋」、第2話が別れ話をするカップルを描いた「別れも愉し」、第3話が2人の劇団の間の恋を描いた「恋はやさし」、第4話がサーカスを舞台に繰り広げられる愛憎劇を描いた「恋のサーカス」となっている。
 第1話と第3話は明るい恋を描き、第2話と第4話では恋がもたらす悲劇を描く、その対象が50年前の日本の恋模様を垣間見るようで興味深い。
監督 豊田四郎
    成瀬巳喜男
    山本嘉次郎
    衣笠貞之助
脚本 黒澤明
    小国英雄
    山崎謙太
    八住利雄
撮影 川村清衛
    木塚誠一
    伊藤武夫
    中井朝一
音楽 早坂文雄
    栗原重一

出演 池部良
    久我美子
    杉村春子
    志村喬
    木暮実千代
    沼崎勲
    英百合子
    菅井一郎
    榎本健一
    若山セツ子
    飯田蝶子
    浜田百合子
    河野秋武
    清水将夫
    進藤英太郎

 

 

DVD未発売・ビデオ廃盤

 

 

 

 第1話の「初恋」が抜群に面白い。脚本は黒澤明、監督は豊田四郎。偶然同じ屋根の下に住むことになった学生同士の淡い恋というありきたりな物語ではあるが、それを非常に純粋な物語として仕上げ、そこに母親の微妙な感情を織り交ぜて行くそのストーリーテリングが絶妙である。これは黒澤明というシナリオライターの純粋さが出た作品だろう。黒澤明は戦中からすでに監督に昇格していたが、戦後すぐは監督と脚本との2足のわらじという感じで、脚本だけで参加している作品も多い。黒澤明というとチャンバラ、アクション、男っぽいというイメージもあるが、この頃の脚本作品を観ると、彼の純粋さが発揮されている作品も多い。また、この作品は久我美子のデビュー作でもあり、顔はパンパンだし、演技も決してうまいとはいえないのだが、フレッシュな感じは作品と見事にマッチしていて、とてもいい。
 そしてもちろん、杉村春子も素晴らしい。まだ子供だと思っていた息子が初恋に落ちることで複雑な感情を抱える母親という役回りで、息子が恋をしていると徐々に気づいて行くときの、内なる感情の変化をその仕草や表情で見事に表現している。豊田四郎は杉村春子を『小島の春』でも脇役ながら効果的な役に配して非常に印象的な演技をさせたことも考えると、この2人は相性がいいのかもしれない。この映画では映画の終わり近くで杉村春子に「母親のやっかみかもしれない」というストレートなセリフを吐かせているが、この杉村春子の演技があるから、このセリフは蛇足だったのではないかと思う。

 第2話はほとんどアパートの一室で展開される会話劇で、木暮実千代がその中心となるのだが、どうもこの木暮実千代が今ひとつという感じで、なかなか難しい。内に秘めた激しい感情を持つ主人公というのは成瀬巳喜男の得意とするところではあるが、この短い時間で、木暮実千代にそれを表現させるのは難しかったか。ラストのクロースアップには迫力があるが、全体的には並というところ。
 第3話はテンポがよく、エノケンの魅力全開という感じ。恋物語というよりはエノケンのパフォーマンスを見る映画という感じだが、舞台での歌って踊る姿もさすがだし、パントマイムじみた演技も滑稽さを出していていい。山本嘉次郎はそのエノケンの軽快なテンポにあわせるように短いカットをつないでいき、映画自体のテンポも軽快になっているので、心地よく見ることが出来る。ヒロインの若山セツ子も控えめながらとても魅力的、4作品のヒロインの中でいちばんよかったのではないかと思う。
 第4話は空中ブランコの殺人という恋物語にしてはかなり意表をつくテーマだが、刑事の取調べによってそのサーカスの中の恋模様が徐々に明らかになって行くという仕掛けになっている。主人公の河野秋武が何故殺人を犯したのかという動機が明らかになって行くサスペンスが見事で、プロットという点で見れば四つの中でいちばん面白いだろうと思う。

 全体的に見れば、まだ戦後すぐという感じで、飯田蝶子演じる闇屋のオバさんなども出てくるが、何よりも録音の状態がよくない(ビデオの問題かもしれないが)。アフレコの音楽は結構いい音量で聞こえる(エノケンの歌もおそらくアフレコだろう)のだが、同録らしいセリフが聞き取りづらく、映画に入って行くのはなかなか難しい。古い映画がこのような理由で、気持ちよく見られないのは残念なことだ。今のデジタル技術を生かして、このような作品がもっとクリアな形で見られるようになるといいと思った。