この映画は非常に地味だ。東北地方の農家の娘が馬を育てるというただそれだけの物語、主役が当時はまさにアイドル的な活躍をしていた高峰秀子だということくらいが派手な要素の作品である。しかしその高峰秀子がいかにも田舎の“ガキ”という役なので、その派手さも作品を見る限り全く感じられない。
が、製作には3年がかけられ、カメラマンには当時の一流どころ4人を起用、それぞれのカメラマンの得意な季節を担当してロケを行うという“超”がつく大作だった。そのような手と金を書けた作品にもかかわらず、出来上がりは非常に地味というのはいかにも山本嘉次郎らしいという感じだ。
しかし、映画としての面白みはあちこちのある。なんといっても最大の見せ場は馬が子供を産むシーン、子供を産むシーンそのものは映されないが、それを見守るいねと家族の姿が非常に印象的である。
この家族はそっけない物言いで、いねは母親のことを「情無し」と何度も言うのだが、実はすごく深いところでしっかりとつながっているということが映画のはじめからしっかりと描かれていて、そのつながりと温かみがこの出産のシーンで一気に出てくる。
母親が出産を終えた母馬に飼葉を持っていってやり、いねがそれを「めずらしいわぁ」と揶揄するあたり、言葉では表すことができないような暖かい感情がじんわりと漂ってくるのだ。このようなじんわりとした感動を与えることができるのは、それまでの地味な組み立てのおかげだ。そこに単純な映画技術を超えた“うまさ”のようなものを感じる。
出産シーンといえばもう1つ、子馬が立つシーンが出てくるのだが、これは実際に生まれたばかりの子馬が立つ場面を映したものだろう。見守っている家族のショットはあとからとって、それをつないだものだろうが、元になっているシーンが本物であるだけに非常にリアルで、見守る側の緊張感やわくわく感と言うものが伝わってくる。
生まれたばかりの子馬が母馬のおっぱいに吸い付くところで小さな弟や妹が口をチュッチュとするという小ネタも利いて非常にいいシーンだ。
他にも、ひさしぶりに放牧場を訪ねたいねのあとを子馬がついていくシーンなど、印象的なシーンがいくつもある。映画としては地味だが、味わいどころはなかなか多い。
戦争中に時間とお金をかけて作った作品だけに、戦意高揚映画ではないが、戦争中らしい作品とも言える。戦争中は暗い作品はご法度、明るく希望を持てる作品を作ることが推奨されていた。この作品もそんな作品だし、里心がつくというか、日本のよさというものをうまく表現しているような気もする。
基本的にはアイドル高峰秀子の映画だが、それだけに人々に強く訴えかける映画でもあるといえるのかもしれない。
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