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霊長類

2004/11/3
Primate
1974年,アメリカ,105分

監督
フレデリック・ワイズマン
撮影
ウィリアム・ブレイン
preview
 霊長類に関する研究の最先端を行くヤーキーズ霊長類研究所にワイズマンが入り、そこで行われる実験の数々を克明に記録していく。従来どおりナレーションなどは一切なく、目の前で行われている実験がどのようなプロジェクトに属し、その目的なのはなんなのかが語られることはない。
 そこに映し出された実験の残酷さによって物議をかもしたが、ワイズマンの意図は果たしてそこにあったのかどうなのか。
review
 映画は研究所の外観から始まり、折の中にいるゴリラへと切り替わる。そして、研究者のひとりが外部の研究者らしいもう一人の男に質問を投げかけられ、会話しているシーンがそれに続く。そのシーンでここで行われている実験が類人猿の性行動に関する実験であることが明らかになる。
 そして、その後しばらくは性行動に関する議論や実験の数々が連なる。その中で電気的な刺激を与えてサルを勃起させ、精液を採取するという実験などもある。そのような実験が行われているという驚きがなければ、このあたりの映像は単調で退屈である。ワイズマンにいざなわれて未知の研究所という場所にわくわくする思いで入っていったわれわれ観客は、その単調さに拍子抜けし、そこにいる研究者たちの単調な生活に自分自身の生活を重ね合わせるかもしれない。このあたりはいかにもワイズマンらしい描写である。劇的なものを期待する観客に肩透かしを食らわせて、倦怠感の渦に巻き込むのだ。

 しかし、この映画は中盤になって相貌を一変する。まず、頭を切開されてそこになにやら回路を接続されたサルが登場する。このサルは脳に直接電気刺激を与えられ、その刺激によってどのような行動をとるかを実験されている。その実験はサルをプラスチックの箱のようなものに固定されて行われるのだが、いくつかの実験が行われたあと、そのサルは頭にそのグロテスクな箱をくくりつけられたまま檻に放され、電気刺激によって反射的に交尾をするのだ。
 この実験は衝撃的だ。観客は自分をサルの立場においてその痛みを感じてしまう。そのように外的な力にいやおうなく操作されてしまうサルの気持ちになって、いたたまれなくなってしまうのだ。
 そして、そのいたたまれなさは、同種のサル(同じ個体ではない)の生体解剖が行われることで極限にまで高まる。無造作に胸を切開され、内臓がだらりと垂れ、脈打つ小さな心臓が現れる。研究者たちは「うまくいった」というようなことをいいながら、その心臓を取り出す。そして続いて無造作に頭部を切断し、脳を取り出す作業にかかる。その作業が始まってもサルは瞳を見開いて悲しげな顔をしている。もちろん体は切り離され、完全に死んでしまっているのだが、カメラはそのサルの顔を執拗に捉え続け、われわれはどうにもいたたまれない気持ちになる。

 これらの映像を見て、いたたまれなさを感じ、サルたちの悲惨な境遇を目の当たりにすれば、この映画が実験に対して批判的であると捉えることも不思議ではない。
 しかし果たしてそうだろうか? 後半の映像がショッキングであるあまりわれわれは冷静な視線を失ってしまっているのではないだろうか? ワイズマンは映画の前半で研究者たちがわれわれと変わりのない人間であり、無慈悲な殺戮者ではないことを示している。そして、後半の壮絶な実験の場面でも彼らの真剣で真摯な態度を克明に記録している。冷凍した脳を極薄い切片に刻んでいくその作業では、ほんの僅かな切れ端すらも無駄にはしないという決意のようなものすら伝わってくるのだ。
 この映画を見て、実験を批判することは簡単だ。しかし、このような実験が行われていることは確かだし、行っている研究者たちはこれが有用であると信じてやっているのだ。問題なのは、実験を批判するかどうかではなく、この実験が象徴している人間と動物/自然との関係を考え直すことだ。この実験は人間が自然を支配していることの象徴的な顕われなのだ。人間の延命や治療に寄与するために動物が殺される。人間はそのような自然の生殺与奪の権利を持つに値するのか。そのような根本的な問がこの映画では問われているのだと思う。
 それはつまり、ここで行われている実験を自分のものとして捉えなければならないということだ。この映画に映っている行為はわれわれ自身が普段行っていることの極端な例に過ぎない。研究者たちは残酷な殺戮者ではなく、むしろわれわれが眼を背け、直接手を下そうとしない行為を代わりに実行する英雄なのである。
 そこまで考えてみて、この実験をどう捉えるか。それがワイズマンがわれわれに要求していることなのではないだろうか?

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ60~80年代

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