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テヘラン悪ガキ日記

2004/10/2
Mahr-E Madari
1998年,イラン,90分

監督
カマル・ダブリージー
脚本
カマル・ダブリージー
レザ・マグスーディ
撮影
アズィーズ・サアーティー
出演
ホセイン・ソレイマニー
ファテメ・モダメド・アリア
ゴルシード・エグバリ
preview
 イランはテヘランの少年更正施設、そこに入所しているメヘディはそこに新たに赴任してきた新しい先生をおかあさんだと思い込んでしまう。ある夜、施設を脱走したメヘディは親戚の家で一晩過ごした後“おかあさん”の子供にしてもらおうと家に向かうが…
 カマル・ダブリージーが実際に少年院にいた少年を主役にして撮ったいかにもイラン映画という風情の少年もの。99年のベルリンこども映画祭でグランプリを獲得した。
review
 イラン映画は好きだ。しかし、イラン映画を観るといつもイランという国の悲哀を思う。この作品のような少年ものを見るときは特にそうである。
 イランが映画産業が盛んな国であることは有名だが、同時に検閲が存在することでも有名である。政治的な主題を持ったものや宗教的に問題のあるものは公開することが出来ない。そのためにイラン映画は少年が主人公になることが多い。それはオトナがストレートに政治的な問題を論じてしまっては検閲に引っかかるが、主人公がこどもならば政治的なほのめかしがあっても大目に見られるという暗黙の了解があるらしいからである。そして、子供でも少年が主人公になるというのは、イスラム教の制度下では女性とは基本的に隠される存在であるというところから来ているだろう。
 しかし、最近は女性を主人公とした作品も多い。ちゃんと髪の毛を隠して、反宗教的なことをしなければ、女性を主人公にしてももちろん問題は無い。そして、そのような流れになったのはサミラ・マフマルバフを中心とする女性監督の台頭があっただろう。
 と書いたが、この作品は男性の監督による少年を主人公とした映画というイラン映画の王道のような映画である。なのでどうしても他の映画との差別化が難しい。本当に少年院にいた少年を使ったというエピソードも、キアロスタミやマフマルバフによってすでに使い古された感すらある手法である。なので、この映画は完全にその質によって判断されることになってしまう。

 長い前置きになってしまったが、そのような無数にある典型的なイラン映画の中でもこの映画はなかなか面白い部類に入ると思う。
 それはひとつには、この少年の「おかあさんだ」という思い込みの面白さにある。いくらなんでも本当に「おかあさんだ」と信じているわけは無いだろう、と観客は思うわけだが、主人公の少年自身は彼女がお母さんであるということを露ほども疑うそぶりを見せない。イラン映画を数多く観ているとこのような事態はよく見られる。どう考えても嘘をついているようにしか見えないの日、どうも本人はいたって真面目で、本心からそれを信じているように見えてしまう。そんな事態がよくあるのだ。
 果たしてこの原因は何なのかはわからない。しかしそれはわかるわけは無い。それが彼らの物事の捉え方だとしか言いようが無いのだ。映画の中盤で出てくる財布を取った取らないというエピソードもそのようなエピソードのひとつであるが、それがひとつの解決を見ることで、そのような事態のからくりというか真相の一部が見えるような気がする。そして、この物語の終わり方も同じくこのような事態を説明しているような気がする。
 それは、簡単に言ってしまえば時間の捉え方の違いなのではないかと思う。少年が「お母さん」というとき、それは少年の「お母さんになって欲しい」という願望の現れなわけだが、それは同時に未来に「お母さんになった」ところから時間がめぐって「お母さんである」という事態が導き出されるのではないかと考えられるのだ。
 それを思い込みと言ってしまえばそれまでだが、それは思い込みとは別のもののような気もするのだ。彼は本当に彼女のことを「お母さんだ」と思っている。それは彼女がお母さんになってくれるに違いないからだ。だから、何度拒絶されても彼女の元に返ってくる。それは彼女が「お母さんだ」からである。
 まったく理解しがたいことではあるが、そのような世界の捉え方の違いのようなものがイラン映画からは常に湧き出てくる。それを体感することこそが文化的なギャップを埋めることにつながると思うから、イラン映画を観ると面白いと感じてしまうのだ。それを感じることが出来ず、「わけがわからない」と談じてしまうから、ブッシュのように間違った民主主義を押し付けることになってしまうのではないかと思う。

Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: イラン

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