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タイタンズを忘れない

2004/4/23
Remember the Titans
2000年,アメリカ,114分

監督
ボアズ・イェーキン
脚本
グレゴリー・アレン・ハワード
撮影
フィリップ・ルースロ
音楽
トレヴァー・ラビン
出演
デンゼル・ワシントン
ライアン・ハースト
ウィル・パットン
ウッド・ハリス
ドナルド・アデオサン・フェイソン
キップ・パルデュー
preview
 公民権運動は一定の成果を上げたが、まだまだ人種差別が残る1970年代初頭のアメリカ、バージニア、学校の併合で白人と黒人がひとつの学校に通うことになったTCウィリアムズ高校ではフットボール・チームも統合されることになった。そして殿堂入り間近と目される白人コーチのヨーストではなく、黒人コーチのブーンがコーチになることが決まった。選手たちは反発し、ヨーストも学校を去ろうと考えるが…
 実話を元に青春感動スポーツドラマ。とりあえず感動ができ、人種差別問題入門という感じにもなっているので、お子様にはよろしいかと思います。
review
 実話、青春、感動、人種問題、ということでアメリカ人が喜びそうな題材盛りだくさんという感じだが、これにはいい点もあるし悪い点もある。まず、アメリカで人種の融合/和解が進んでいく第一歩を描いたという意味では面白いし、すでに30年以上前の話になり、よく知らない人には勉強になる。そして、それを「男の友情」という面から捉えていることで、非常に純情なというか、ストレートで飾り気のないものとしてみることができる。とくにジュリアスとゲリーの友情はとても感動的で、しかも実話というのがかなり効いていて、「ああ、こういうのっていいなぁ」と単純に思ったりする。
 ので、これから青春を迎えようという少年たちが見れば、何か得ることがあるのかもしれない。などと思って「ディズニーっぽいな」と思ったらやっぱりディズニー。それはつまり、もっと描かなくてはならないはずのさまざまなことは一切無視されて、美しい部分ばかりが描かれていることには目をつぶらなくてはいけないということであり、どこまで行っても子供だましに過ぎないと考えてみなくてはならないということだ。

 そして同時に、この映画が孕む誤謬についても(大人は)考えなくてはならない。実話実話ということで、何とか説得力を保ってはいるが、実はということがつまり脚色がないということを意味するのではない。劇中でブーンが兄弟の数を「12人」と脚色するように、何かを伝えるために脚色することは罪とは考えられていないはずだ。
 この映画では合宿によって友情が芽生え、それは部員のほとんど全員にあまねく行き渡り、それが揺らぐことはなかったように描かれている。しかし、同じ人種でもどうしても仲良くできないことはあるのだから、そんなことがあるわけはなく、ここには描かれていない根深い対立もあったはずである。それは無視していい問題として扱われたわけだけれど、そのようなものもあるのだということはとりあえず頭に入れておかなければならないはずだ。
 そして、この映画に出てくる青年たちはみな素直で、純粋で、爽やかなわけだが、それは汚く醜い部分がディズニーによってそぎ落とされたせいだと肝に銘じておかなければならない。暴力的な部分もこの映画に描かれているように穏やかなものではなかったはずだし、男女関係もこの映画では完全に隠蔽されている。

 もちろん映画の見方としては青春の甘酸っぱい思い出に浸って「ああ感動、ああ爽やか」で終わっていいのだけれど、見終わったあとに自分を客体化して、この映画が隠蔽しているもの、隠れた意図としてもっているものについて考えなければならない。
 行き過ぎを恐れず突っ込んで言えば、スポーツを通して団結することを描くというのは、戦争の隠喩であるとも考えられる。スポーツという「戦い」の一方の側としての仲間意識とは、あくまでも「敵」の存在を前提としたものである。他者としての「敵」が存在し、それに対立するものとして「味方」を仲間とみなす。そのときに人種という要素が薄まったに過ぎず、実際のところ人種間の理解が深まったということではなく、「敵-味方」構造が変化したに過ぎないのだ。これは差別構造の根幹が揺らぐことはなく、異なる差別構造が生まれたことを意味するに過ぎない。
 その変化の中心にいて、自分の意識の劇的な変化を経験した人たちはそうではないのだと思うが、そのような経験をした人はごく一部に過ぎない。
 私たちは映画を通して擬似的にその経験をしたように思うけれど、それはまやかしに過ぎないということを意識しなくてはならないのだと思う。そうしなければ、隠されている「何か」に見事にはまってしまう。
Database参照
作品名順: 
監督順: 
国別・年順: アメリカ1990~2000

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