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ゼロの焦点

2004/4/12
1961年,日本,102分

 
            
     
 
 新婚7日目の禎子は、金沢へ20日間の出張に出かける夫・憲一を上野駅で見送った。これが終われば東京勤務となる最後の出張、禎子は12日に帰ると言い残した夫をただ待っていた。しかし、約束の日を3日過ぎても夫は帰ってこず、会社に電話してみると、12日から行方が知れないということで、会社が調査のために人を派遣するのに同行することにした。
 松本清張のベストセラーを清張作品を多く監督している野村芳太郎が映画化。清張らしい重苦しいサスペンスで、久我美子が熱演。
監督 野村芳太郎
原作 松本清張
脚本 橋本忍
    山田洋次
撮影 川又昴
音楽 芥川也寸志

出演 久我美子
    高千穂ひづる
    有馬稲子
    南原宏治
    西村晃

 

 


ゼロの焦点

 

 

 
 海と雪、日本海のねずみ色の空、まったく松本清張らしい世界である。そして映像も、光を巧みに使ってコントラストを強くつけ、重苦しい雰囲気を強調する。とにかく暗く、救いようがないのが松本清張のドラマであり、このドラマもまたそうなのである。
 まだまだ戦後が続いていた時代、占領時代の記憶は色濃かった。その占領時代の記憶が人々の生活に影を落とす。世の中がさまざまに変化し、人はさまざまな経験をする。世の中が落ち着いてきて、より人間的な暮らしができるようになっても、そんな戦争直後の時代を過去として片付けることができない。そんな「過去」がさまざまな不幸を生み出してきた。
 この映画は、完全にサスペンスの形をとっているが、実はそのようにして拭えない過去を背負ってしまった人間たちのドラマなのである。最大の問題は貧しさだったろうが、その貧しさから、人々はさまざまなことをやらざるを得なかった。人から後ろ指刺されるようなさまざまなことを。そのときは仕方がなかった。しかし、今は隠しておきたい過去なのである。
 そのような物語がサスペンスになると、どうも暗くなるが、そのような物語が60年代に多く映画になっていることを考えると面白い。60年代という時代は、世の中が明るくなっていく時代であるように見えるが、その裏には常に後ろ暗い過去(近い過去)があった。その後、高度成長期となって、そんな過去はどんどん忘れ去られていくことになるが、このころにはまだ後ろ暗い過去というものが人々の生活に影を落とし、何か暗澹たる空気が流れていた。
 だから、このようなサスペンスが非常にリアルなものとして受け入れられたのだろう。自分の過去を振り返ってみて、この映画で描かれているような物語が自分の物語でもあると感じられることで、物語により深く入っていけるのかもしれない。


 具体的に書くとネタばれになるので、ここから先はネタばれます。サスペンスはからくりを知ってしまうと面白くないので、「ゼロの焦点」の物語を知らない人は読まないでね。

 戦争未亡人になったり、戦災孤児になったりした女性たちは都会でパンパンになるというのがひとつの選択肢としてあった。それは選択肢ではあるが、もう他に選びようのない追い詰められた状況での選択だった場合が多いだろう。しかし、そのような状況とは関係なく、そのような過去があるということで、偏見の目で見られることは多かった。したがって隠そうとした。この映画もそんな女性のドラマであるわけだけれど、そういう話は1970年代くらいまでは数多く見られた。『人間の証明』にもそのような話が出てきた。
 そしてそれは地方から出てきた女性たちが多かったようでもある。そこから都会に出てお金を稼ぎ、田舎に帰って何とか生活する。そんな生活があったのだと思う。リアルタイムにその時代を生きていなくても、そのような過去が日本にあったことを考えれば、このドラマも味わい深い。これもまた戦争が落とす暗い影、戦争とはただその時人々を殺し、不幸にするだけではなく、終わったあとでもさまざまに不幸の影を落とすのだ。
 「戦後は終わった」といわれるけれど「戦後を忘れてはいけない」とも思うのだ。