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アイデン&ティティ

2003/12/20
2003年,日本,118分

監督
田口トモロヲ
原作
みうらじゅん
脚本
宮藤官九郎
撮影
高間賢治
音楽
白井良明
大友良英
遠藤賢司
出演
峯田和伸
麻生久美子
中村獅童
大森南朋
マギー
コタニキンヤ
岸部四郎
野村祐人
夏木ゆたか
大杉漣
preview
 ギターの中島を中心としたバンド“SPEED WAY”はバンド・ブームの波に乗ってメジャー・デビューし、曲もヒットしてまずまずの成功を収めていたが、売れる歌と本当にやりたい歌のあいだで苦悩する中島ととにかく売れたいと考えるボーカルのジョニーとのあいだに微妙な軋轢が生じていた。そんなこんなで曲作りに頭を悩ます中島の前にギターとハーモニカを抱えた謎のロッカー“ディラン”が現われる…
 みうらじゅんの青春マンガをバンド“ブロンソンズ”の仲間でもある田口トモロヲ監督により映画化。脚本はいまや売れっ子宮藤官九郎、さらに注目の役者中村獅童が出演と話題性には事欠かない作品。内容のほうは非常に地味な仕上がりながら、原作に忠実にいいまとまりのある作品に仕上がっている。原作を読んだ人も読んでいない人も楽しめる作品。
review
 “イカ天”といえばある年代の人たちは郷愁を覚える。“BEGIN”も“たま”も“ジッタリン・ジン”も“ブランキー・ジェット・シティ”もいた。インディーズと呼ばれ、路上で活動し、カセットテープを手売りしていた若者たちが一気にスターダムにのし上がり、それを見ていた若者たちは誰もがバンドを組み、文化祭で歌った。
 いまや謎のマルチ・タレントと化しているみうらじゅんもその時29歳で遅ればせながらブームに乗ろうとして、“大島渚”というバンドを組んでイカ天に出場した(『アイデン&ティティ』はこのバンドの2ndアルバムのタイトルであり、その後その経験がマンガとなったときにもタイトルにされた)。すでに多少名前が売れていたということもあるけれど、“歌舞伎ロックス”やら“スイマーズ”などと並んで「イロモノ」の一種とされた。
 個人的な思い出を語れば私は“遊星ミンツ”というバンドが好きだった。大人数構成のバンドの一つで、「イロモノ」的な要素も備えつつ、以外にしっかりとした音楽をやっていたが、似たような傾向の“モダン・チョキチョキズ”の後塵を拝し、結局憂き目を見なかったのだが。

 知らない人には何のことやらさっぱりわからない話だが、この映画はそんな風に「あの」時代へのノスタルジーを掻きたてるノスタルジー映画であるという面も持ちながら(たぶん宮藤官九郎と出演者たちがその年代なのではないかと思う)、同時にまっすぐな青春映画でもある。どうも屈折した大人のように見えるみうらじゅんだが、この映画の原作は非常にまっすぐな青春物のマンガで、この映画は非常に原作に忠実に作られているといっていい。とくに、セリフは原作のセリフがほとんどそのまま使われ、ストーリーも基本的には同じである。これは、脚本家の宮藤官九郎がみうらじゅんのファンであるということも関係してくると思うが、そもそも原作のマンガが非常によく出来ているので、そのまま映像化するだけで十分に面白い映画になって当然ともいえるだろう。
 それでも原作のほうはあまりにまっすぐな物語を書いてしまったテレからか、テキストも絵も隙間だらけである。映画のほうはその隙間を見事に埋めて、原作よりもさらにストレートな物語になっている。そして、ビジュアル的にも非常に映画的なビジュアルになる。
 とくに“ディラン”がいい。ハーモニカの音に字幕をつけるというある意味斬新な手法で様々なことを語る“ディラン”は、原作のキャラクターの中でも最も映像化が難しそうなキャラクターだと思ったが、映画のディランは原作よりいいかもしれない。なんといっても格好いい。映画を見終わった後ボブ・ディランの曲が聞きたくなる。
 ボブ・ディランのようにまっすぐで、不器用で、心に染み入る。この映画はそんな映画である。なんだか不良なオトナたちが自分たちが若者の頃を鼻白みながらも今の若者たちに言っている。「愛しかない」と。
 出演者たちもそんな雰囲気を非常によく出している。とくに大森南朋が地味ながら非常にいい。この人は最近いろいろな映画で、非常にいい味を出す脇役を演じている気がする。主役にはなれなくても、きっといいバイ・プレイヤーになると思う。この人もある意味では「ロック」な人なのかもしれない。見た目は柔らかだがプロフェッショナルで一本筋が通っている感じ。

 「ロックは死んでない」
 物分りのいい大人になってしまった若者たちよ、この映画を見なさい。
 「息の仕方を知っているなんて奇跡だ」ということを思い出しなさい。
Database参照
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監督順: 
国別・年順: 日本90年代以降

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